島村英紀『夕刊フジ』 2023年12月1日(金曜)。4面。コラムその519「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

月誕生のナゾを解明へ 鍵握る准衛星「カモオアレワ」

『夕刊フジ』公式ホームページの題は「「月」誕生のナゾ解明へ…鍵握る準衛星「カモオアレワ」 巨大惑星が初期地球に衝突、残骸から生まれたきょうだい」

 

 月がいつ、どうやって出来たかは、ようやく解けかけてきたナゾだ。

 多くの学者は地球の歴史のごく初期に巨大な惑星が地球に衝突したのだと考えている。この理論は「ジャイアント・インパクト仮説」と呼ばれ、月と地球の基本的な特徴の多くを説明している。この星にはすでに名前が付いており「テイア」と呼ばれる。

 しかし、テイアの存在を示す直接的な証拠は、まだ見つかっていなかった。学者の間では、テイアが地球に残した残骸は地球内部の4000℃にも及ぶ熱で溶解してしまったとの考えが強かった。

 だが、新理論が今年になって登場し、テイアの残骸が部分的に残っていて地球内部にあると示唆した。地球に衝突後、テイアの溶けた塊はマントルの中に沈み込んで固体化した。その結果テイアを構成する物質の一部が地球の核のすぐ上、地下約2900キロの位置に残っているのだという。

 既に地球の奥深くに二つの巨大な塊が埋まっていることは学者が認識していた。これらの塊の幅は数千キロ。周囲のマントルに比べ鉄の濃度が高いために地震波の測定で検出された。ただ、塊の起源については学者にも分かっていなかった。「LLVP(巨大低速度領域)」と呼ばれるこうした塊の一つはアフリカの下、もう一つは太平洋の下にある。これが巨大惑星の名残りに違いないというのが新理論だ。

 ここで援軍が現れた。

 準衛星「カモオアレワ」は惑星の衝突で吹き飛ばされた月の破片で、そのまま軌道に乗ったため、準衛星となった可能性があるという。

 カモオアレワは、ハワイで発見され、ハワイ語で「振動する天体」を意味する。

 小惑星カモオアレワは、地球を公転しているように見えることから「準衛星」の1つとされている。準衛星とは、ある惑星(地球)から観察すると、その惑星を周回しているように見える小天体だ。じつは太陽の周りも回っているのだ。

 準衛星は惑星にいくつもある。地球にも十数個が知られている。一般に、準衛星はせいぜい数十年程度しか地球のそばにいない。ところがカモオアレワは、数百万年もの間、地球に寄り添うだろうと予測されている。

 カモオアレワが反射する光のパターンが、アポロ計画で持ち帰られた「月の石」と一致しているから、カモオアレワが反射する光のパターンはもともと月の一部だったのではないかという仮説は以前からあった。ただ、確証がなかったのだ。

 準衛星カモオアレワは月のきょうだいとはいえ、とても暗い。肉眼で観察できる星より400万倍も薄暗く、直径は約50メートル。もっとも接近したときで地球との距離が1400万キロと比較的近い。これは月の30倍ほどだ。

 ハワイのパンスターズ望遠鏡で発見されたのはこの暗さゆえに2016年になってのことだ。
 

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