島村英紀『夕刊フジ』 2023年11月10日(金曜)。4面。コラムその517「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

不思議な地震 津波予想難解 新島誕生 鳥島近海で軽石採取
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「海底噴火で新島が誕生、鳥島近海で軽石採取 気象庁を振り回した不思議な地震、津波注意報の意外な原因」

 気象庁が津波注意報に振り回された。
 
 11月9日午前5時すぎの地震のマグニチュー不ドは明で、震源はごく浅く、気象庁で震度1以上を観測した場所はなかった。
 
 午前5時25分ごろ、東京・伊豆諸島の鳥島近海を震源とする不思議な地震があった。午前4時以降、現場では地震が多発していた。

 津波は東京都・八丈島、千葉と高知、宮崎、鹿児島の各県などで観測したほか、八丈島で小型漁船が転覆するなどの被害があった。

 気象庁は「震源が決められず、珍しい事例。原因が分からない」としている。このため民報各社のニュースショーなどで火山学者、地震学者たちが海底火山のマグマ説や地震説など各種の説が乱れとんだ。

 津波注意報は普通は震源が決まってマグニチュードを決めてから出す。しかし今回は震源が決められなかったので異例だった。

 詳細が分からないため予測が難しく、気象庁は、伊豆諸島と小笠原諸島、千葉、高知、宮崎、鹿児島の各県に津波注意報を発表した。

 津波の予想高さは1メートルで、八丈島では午前7時17分、60センチの津波を観測したほか、太平洋側の小笠原から鹿児島まで広範囲に津波が到達した。

 気象庁の津波注意報は正午に全て解除された。

 ところが意外なところから決着がつきそうだ。気象庁は1日、東京・伊豆諸島の鳥島から南西約100キロの海面に軽石が点在しているのを確認した。観測船の帰京後、軽石の:精密な分析を行うという。

 新島誕生である。新島は硫黄島から目と鼻の先に新島が誕生して大量のマグマと軽石を噴き出したのだ。

 海上保安庁が10月20日、鳥島の西約50キロの海上で軽石とみられる浮遊物が南北約80キロにわたって点在しているのを上空から確認し、気象庁が観測船で現場観測を行っていたものだ。

 採取した軽石は数ミリから、大きいもので長辺が約12センチあった。

 海底噴火が起きてマグマが大量に噴出したのであろう。そのうち軽石が海氷面を漂っていたわけである。

 鳥島から硫黄島までは100キロ以上も離れている。気象庁の地震計の配置は有人の観測点だけだ。震源誤差から見れば、まばらなのを見るとやむを得ないところだろう。

 私も関西テレビ「ミヤネ屋」からコメントを求められた。同地域は海底地震計がまったくないので震源が決められないのが最大の弱点」と答えておいた。地震説にせよ、火山説にせよ、震源が海底地震観測で決まるはずだからである。

 今回の津波は気象庁の地震計配置の「穴」を図らずもクローズアップされた地震であった。

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