島村英紀『夕刊フジ』 2023年10月19日(金曜)。4面。コラムその514「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

死者1000人超 アフガンの地震はなぜ甚大被害をもたらしたのか
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「日本では考えられないM6・3で死者1000人超 アフガン地震はなぜ甚大被害もたらしたのか 背景に「日干しれんが」建築」

 アフガニスタンで大きな地震被害が生まれた。死者1000人以上が出たが、犠牲者の数はさらに増える恐れがある。昼間の地震だったので、家にいた女性と子供、老人、病人が犠牲になった。

 マグニチュード(M)6.3の地震が3回起きた。日本ではこのM では考えられない死者数だ。これはもっぱら「日干し煉瓦」のせいだ。

 木材がない中近東や中央アジアの国々や中国南部では泥をこねて太陽で干しただけ、つまり火で焼き固めていない日干し煉瓦で家を造る。庶民の家はこのように安くて入手しやすい材料で作る。

 この日干し煉瓦は建築材料としては悪いものではない。手に入れるのは容易だし、熱を吸収してゆっくり放出するから家のなかは涼しい。外が40℃近くの夏でも、中は25℃ほどだ。暑くて乾いた気候には適しているのだ。砂漠の国で木材もない環境では、ほかに選択肢がないだけに、最も適している材料だろう。

 だが地震がときおり襲う地帯では話は別だ。地震にはとても弱いのである。

 しかもインド亜大陸というプレートが押して来ている。

 インド亜大陸はインドを載せている大陸だ。赤道を超えてきて1000万年あまり前に、いまの位置にくっついた。そのあとも北上を続けている。

 このため地殻がまくれ上がって、ヒマラヤの高山を作った。それだけではない。アフガニスタンをはじめ中国南部、パキスタン、ネパールなどに大地震を起こしている。

 9万人の犠牲者を生んだ2008年の中国・四川大地震(M7.9)や、多くの死者が出た2005年のパキスタン大地震(M7.6)が襲ったし、ネパールでも2015
年のネパール大地震(M7.8)で数千人が犠牲になった。

 今度のアフガニスタン地震もインド亜大陸が起こした地震の一つだ。震源は西部のヘラート州・ヘラート市から約40キロ西部に震源があった。3回、M6.3の地震が来たという。ヘラートは同国で3番目の大都市だ。

 日干し煉瓦は厚くて重い。被害が大きかったヘラート州では、ほぼすべての家屋が倒壊して住民が下敷きになり死者や行方不明者などの実態が把握できない集落もある。

 アフガニスタンでは、去年6月にもマグニチュード5.9の地震が起き、1000人以上が犠牲となった。それだけではない。同国では過去に何度も大きな地震に襲われた。

 2021年にタリバンが実権を握って混乱状態の中で米軍が撤退して以来、国際援助団体も多くが同国から撤収してしまった。世界銀行は地震前の先月、アフガニスタンの世帯の3分の2が現在、家計を支えるうえで大きな困難に直面しているとの見方を示した。

 経済危機や飢えの危機が続く。何万人もの人々が死亡したり住む場所を失った。地震の被害からの復興はさらに難しくなっている。弱り目に祟り目である。 


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