島村英紀『夕刊フジ』 2023年9月15日(金曜)。4面。コラムその509「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

どうなるボイジャー2号の通信
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「どうなる「ボイジャー2号」の通信 時速6万キロの猛スピードで地球から遠ざかり…現在は約199億キロの地点に」

  7月下旬、NASAのコマンド送信ミスでボイジャー2号と通信が出来なくなってしまった。アンテナの向きが、地球からわずか2度ずれただけなのに、通信が途絶えてしまったものだ。その後の先月上旬に通信は回復したという。

 ボイジャー2号はすでに太陽系を旅立ち、地球から約199億キロも離れた宇宙空間にある。

 NASAは同機の捜索に奔走した。最後の救いは10月15日にスケジュールされた同機の定期的なアンテナの方向リセットを待つしかないところまで追い詰められた。


 最後の望みの前に頼ったのは深宇宙通信情報網「ディープスペースネットワーク(DSN)」だった。DSNは地球の自転や公転によらず、一年中、外惑星軌道を含む探査機との通信を可能にするために、米国・カリフォルニア州のほかにスペイン・マドリード、オーストラリア・キャンベラに地上局を設置している。


 ボイジャーは時速約6万キロという猛スピードで地球から遠ざかっている。現在、地球から約199億キロも離れたところまで電波が届くのに18.5時間、そこから折り返しの返事が地球に届くまでに18.5時間もかかる。確認できるまで37時間、1日半もかかる。キャンベラのDSNも最高出力にして電波を送信しなければならなかった。


 DNSのおかげでボイジャー探査機からの微弱なキャリア信号を検出することができた。キャンベラ深宇宙通信施設からボイジャー2号に向けて、アンテナの向きを地球の方向へ戻すためのコマンドが送信された。NASAは、さぞほっとしただろう。


 ボイジャー2号は、木星、土星、天王星、海王星の接近探査を行った後、同型機のボイジャー1号に続いて太陽圏を脱出して、星間空間に到達して貴重なデータを地球に送り続けている。


 もう一つ大事な目的はこのボイジャーにはメッセージが書かれたゴールデンレコードが搭載されていることだ。ゴールデンレコードはレコード本体に金メッキされた銅製の円盤で、レコードカバーはアルミニウム製だ。


 特徴があるのは表面が超高純度ウラン238で覆われていることだ。ウラン238の半減期は45.1億年。このレコードを受け取った現代人以上の文明ならば、同位体組成を解析することで、いつごろ収録されたかが分かるようになっている。


 このレコードに収録されているものは、地球の生命や文化を伝える音や画像だ。たとえば115枚の画像。波、風、雷、鳥や鯨など動物の鳴き声などの多くの自然音。さらに様々な文化や時代の音楽。日本語を含む55種類にわたる言語のあいさつが含まれている。またピアニスト、グレン・グールドの名演奏、バッハの「平均律」録音や日本の尺八の音もある。


 さて無事に届いて無事に返事が帰って来るのだろうか。


s 帰ってくるとしても、ずいぶん先の
ことに違いない。
 
 
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