島村英紀『夕刊フジ』 2023年9月8日(金曜)。4面。コラムその508「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

超大陸の分裂とダイヤモンド噴出
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「超大陸の分裂とダイヤモンド噴出 実は簡単に燃え、元素で言えば炭素…ナゾだった地表にどうやって運ばれた?」

  ダイヤモンドは簡単に燃えて、灰になってしまうのを知っているだろうか。ダイヤモンドは元素から言えば炭素だけのものだ。つまり、そのへんの炭と変わらない。
 
 しかし炭とは違って結晶構造がとても緻密だ。それゆえ宝石の中で一番硬くて、光をよく透す。

 
 この結晶構造は地表からの深さ150〜200キロメートルのところで生まれたものだ。そこでの圧力は6万気圧、温度は2000℃もある。


 ダイヤモンドが地表にどうやって運ばれたかはずっとナゾだった。もし、ゆっくり上がってくるのなら途中で燃えてしまって、ただの灰になってしまうはずだからだ。


 噴出の速度は時速数十キロ以上という、とんでもない速さのはずで、火山が激しく噴火したときにだけ得られるものだ。


 ダイヤモンドは火成岩キンバ―ライトに含まれている。ダイヤモンドは露天掘りで、直径も深さも数百メートルから1キロメートルを超えるほどの巨大な漏斗状の穴が開いている。


 いままでは過去5億年の間に、この岩石が爆発的に噴出して地表にまで運ばれてくることがあったというくらいしか分かっていなかった。


 英国・サウサンプトン大学の地球学者ガーノン教授らの研究で、超大陸が分裂するときにだけ、ダイヤモンドを地球の表面に噴出させていたことがわかった。


 超大陸とは大陸が一つにくっついた巨大な大陸のことで、この超大陸は形成と分裂を繰り返して、今のような大陸の形になったものだと思われている。超大陸にはパンゲア、ゴンドワナ、ローラシアなどがある。


 ゴンドワナは現在のアフリカ大陸、南アメリカ大陸、インド亜大陸、南極大陸、オーストラリア大陸やを含む巨大な大陸だった。インド亜大陸が別れてからも北上を続け、南アジアに大地震を起こしている。


 大陸プレートの分裂が始まってから2200万〜3000万年後と遅れてキンバーライトの噴火がピークに達したことがこの研究からわかった。ゴンドワナも約2億年前に分裂が始まり、その約2500万年後に現在のアフリカと南アメリカで、キンバーライトの噴火が始まった。噴火が陸の中心に向かって進んだらしい。


 大陸プレートが引き離されることで、地殻が薄くなって非常に不安定になる。薄くなった地殻に地下から上昇してきた溶けた岩石がぶつかり、冷えては再び沈み込むという循環が起きている。このパターンはプレートの分裂から始まったキンバーライト噴火が大陸の内部へと移動する地質学的な知見と一致している。


 いままでに見つかったのは南アフリカ、ロシア、アンゴラ、米国などだけだ。


 この研究で、まだ見つかっていないダイヤモンド鉱床が世界のどこかで見つかるかもしれない。


 超大陸の分裂とは関係がない日本には出そうもない。

 
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