島村英紀『夕刊フジ』 2023年9月1日(金曜)。4面。コラムその507「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

震度6強で倒壊・・都心高層ビルのリスク
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「震度6強で倒壊…都心高層ビルのリスク 調査対象の3割が該当 エレベーター停止の復旧作業、マンションは一番最後に」

  2018年に初めて東京都が震度6強以上の地震で倒壊する恐れがあるビル名を公表した。

 ちなみに震度は7まであり、熊本地震(2016年)や胆振(いぶり)東部地震(2018年)や阪神・淡路大震災(1995年)では震度7を記録した。


 震度6強でも調査対象になったうちの3割もの249棟で倒壊の恐れがあった。


 公表は悪いことではあるまい。不特定多数の人々が集まるビルが大地震で危ないかどうか知っている必要があろう。


 しかし一方で、今回の調査は限られたものだけだということも知っている必要がある。


 それは「1981年以前の旧耐震基準で建てられて不特定多数の人が集まる一定規模以上の施設で、このほか災害時に緊急車両が通る道路の幅の2分の1以上の高さの建築物」だけが対象になったことだ。それ以外の建物では調査や公表の対象になっていない。小規模なホテルや商業施設や劇場なら安全だということはもちろんない。調査していないだけだ。


 当時の都の発表では、震度6強で倒壊する危険があるのは人が多い渋谷109や紀伊国屋書店の新宿本店ビルや、中野区・中野ブロードウェイの商業ビルや、ニューオータニ(東京・千代田区)の本館に隣接するビルや、千代田区・北の丸公園の科学技術館ビルも発表された。


 すでに耐震工事を終えたところもあるようだが、倒壊の恐れがあると各地の自治体に発表されたホテルや百貨店では、営業を休止したり閉店したりする動きが目立つ。今回の公表で改修や建て替えをするか、閉館するかの決断を迫られている。


 ところで大阪北部地震から次の関東地震が学ぶべきことは多いだろう。


 2018年5月に起きた大阪北部地震。マグニチュード(M)は6.1、最大震度は6弱。内陸直下型地震としてはそれほど大きくはなかった。


 しかし日本第二の都会である大阪では多くの都市型被害が出た。朝8時前に地震が起き、激しい交通渋滞があちこちで起きた。また大手私鉄では阪急、南海、阪神、京阪が全線で止まったほかJRも各地で止まり、人々が線路を歩かされた。


 徒歩で帰宅する人で駅や橋が埋まるなど「通勤難民」も多かった。夕方だったらもっとひどかったに違いない。


 このほか、この地震で明らかになったことはエレベーターがある。約3万台以上が停止した。


 技術者が限られているうえ、復旧の順番は明確に決まっている。最優先するのはエレベーター内に閉じ込められた人の救出、次いで病院などの建物、行政機関が入る公共施設、高さ60 メートル以上の高層住宅の順だ。


 一般のマンションは最後になる。だが、たとえ低層階でもエレベーターを使うことが当たり前になり、エレベーターが停止することで大きく影響することが多い。


 通勤難民、交通渋滞、エレベーターなど、大都会が地震に弱いことをまざまざと見せつけた大阪北部地震であった。

 
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