島村英紀『夕刊フジ』 2023年8月25日(金曜)。4面。コラムその506「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

関東大震災100年 都会の「木密地帯」を襲う火災
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「関東大震災100年、都会の「木密地帯」を襲う火災 人が住めなかった土地が開発され災害は時代とともに増加」

   78年前の3月10日は米軍機の空爆で10万人がなくなった日だ。「紙と木で出来ている日本の家は簡単に燃える」ということで、焼夷(しょうい)弾が雨霰(あられ)のように投下されて、東京は火の海になった。

 東京が火の海になって10万人もの人がなくなったのは100年前の関東大震災以来である。マグニチュード(M)7.9の地震で首都圏は3日以上にわたって火
の海に舐め(なめ)つくされた。

 「日本の家は紙と木で出来ているので燃えやすい」造りはいまでも続いている。

 いやそれどころか、東京圏は東京を超えてますます拡がっていて、地震に弱い。手を延ばせば隣の家に手が届くくらいに密集した家が、東京を超えて埼玉・千葉・神奈川、その外まで、ますます拡がっている。燃えやすいのは耐火壁などである程度解消できたものの、家屋が密集しているのはどうしようもない。災害、とくに火災に弱い。

 普段の消火能力はある程度整っている。しかし大地震や大規模空襲には能力が足りないのだ。阪神・淡路大震災(1995年)のときの神戸・長田町を中心にした大規模火災もそうだった。

 首都圏や大阪などの都会には「木密地帯」といわれる古い木造住宅が密集した地帯が多い。

 東京でいえば、有名な東京東部に限らず、山手線のすぐ外側で環状7号線道路の内側を中心にドーナツ状にある地域だ。これらには品川区南西部、大田区中央部、中野区、杉並区東部などがある。耐火性の低い木造住宅が密集していて、地震のときの火災が燃え広がる恐れが大きい。

 これは東京だけではない。そのほかの地域や他県にも同じような住宅が拡がっている。

 近頃は自治体が耐震診断だけではなく、数十万円の耐震補強も補助する仕組みがある。自治体は「木密地帯」解消に躍起なのである。

 しかし「木密地帯」に住んでいる人たちは、行政が提供している耐震診断も耐震補強も、数百万円の自己負担が出来ない人たちが多い。
 古くて弱い家に住み続ける地震弱者を選択的に襲うのが地震なのである。

 これらの建物は地震に限らず、荒川の氾濫による水害や土砂災害など各種の災害に弱い。

 一方、災害のほうは時代とともに増えていく傾向にある。

 たとえば2014年に起きて77の人命を奪った広島・安佐南区の土砂災害がある。広島市が北に広がり60年以上も安全だったが「いままでにない」豪雨で地滑りが起きてしまったのだ。

 1978年に起きた宮城県沖地震は大きな被害を生んだが、全壊した家1200戸の99%までが戦後に開発された土地に建っていた。

 つまり住宅地が広がっていって、これまで人が住めなかった土地が住宅用地として開発されているのである。

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