島村英紀『夕刊フジ』 2023年8月18日(金曜)。4面。コラムその505「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

関東大震災100年 津波の被害はどれくらいか
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「関東大震災100年 今なら東京の津波被害はどれぐらいか 人工海岸、ゼロメートル地帯、地下鉄も被害甚大の恐れ」

 間もなく関東大震災(関東地震)から100年になる。地震が起きたのは1923年9月1日、死者10万人以上という日本史上最大の被害を生んだ大災害だ。9月1日は防災の日になっている。

 関東地方の下に南方から潜り込んでいるフィリピン海プレートが起こしたマグニチュード(M)7.9の大地震だった。

 間の悪いことに海溝型地震が、日本を襲うもううひとつの大地震、直下型地震としても起きたために関東地方では甚大な被害を生んだ。

 海溝型地震が直下型地震としても起きる場所は世界的に見てもそう多くはない。しかもそこに首都を置いているのは日本ぐらいのものだ。

 起きたのは関東大震災が初めてではない。海溝型地震は繰り返す。前回は江戸時代の1703年だった、

 だが、一回ごとに微妙に違う。1703年の震源は、最近の研究によれば、震源はもっと海溝寄りだった。またMはもう少し大きかった。

 これらのために、海から2キロ以上離れた鶴岡八幡宮にまで津波が来たことが記録されている。関東大震災のときには、ここまでは津波は来なかった。

 もし今なら、鎌倉はもちろん、湘南の大磯、茅ケ崎まで海岸までびっしり家が.建っているし、沿岸に江ノ電も通っているから、被害はずっと大きいに違いない。

 東京での被害が大きくてマスコミ各社も突然の地震に甚大な被害を被っていたから、各地の被害はそれほど報じられていないが、東京湾での津波の被害も大きかった。

 東京湾は入口が狭いフラスコ型ゆえ、外から入って来た津波が大きくなることはない。日本の他の地方には多いリアス式海岸とは違う。

 しかし、たとえ50センチの高さの津波でも人は歩けなくなるという実験結果もある。

 いまや東京湾岸は90%以上が人工海岸になっている。製鉄所、発電所、造船所、新車の積出港、観光客が集まっている場所・・・など重要なものが立ち並んでいる。

 このほかゼロメートル地帯に建つ工場や住宅の被害も懸念される。

 地下鉄も心配なものの一つだ。墨田区・錦糸町の地下鉄の駅に表示があって、入り口には海抜0メートルの表示がある。海抜0メートルだけでも心細いが、地下鉄はそのはるか下を通っている。

 東京の地下鉄は多くが海抜マイナスのところを通っている。ときには川や池の下を通っている。地下鉄の新設工事で台東区・不忍の池の底を抜いてしまったこともある。

 新装なった渋谷駅は地下5階まであるが、津波で停電したら非常灯は点くだろうが、水が落ちてくる中を地上の非常口まで逃げ出すのは容易ではなかろう。

 人工海岸も地下鉄も一回前の1703年の江戸時代の地震のときにはなかったものだ。

 今度どんな被害が出るのか、分からない。

この記事
  このシリーズの一覧

島村英紀・科学論文以外の発表著作リストに戻る
島村英紀が書いた「地球と生き物の不思議な関係」へ
島村英紀が書いた「日本と日本以外」
島村英紀が書いた「もののあわれ」
本文目次に戻る
テーマ別エッセイ索引へ
「硬・軟」別エッセイ索引へ