島村英紀『夕刊フジ』 2023年7月21日(金曜)。4面。コラムその501「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

大阪北部地震から5年 "最強の”地震でなくても脆い都会の建物
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「最強の地震≠ナなくても脆い大都会の建物 交通渋滞、私鉄・エレベーターの停止…大阪北部地震から5年」

 大阪北部地震から5年がたった。登校中の小学校4年生の女児がブロック塀の下敷きになるなど、6人が犠牲となった。

 マグニチュード(M)は6.1、モーメント・マグニチュードはMw5.5で、内陸直下型地震としてはそれほど大きくはなかった。震源の深さは13キロメートル。

 Mから見ても、最大震度から見ても、それほどの大地震ではなかった。現に大きな地震には名前を付ける気象庁は地震の名前をつけていない。このため「大阪府北部を震源とする地震」、「大阪府北部の地震」、「大阪北部地震」、「大阪地震」など、呼び方もまちまちだ。この呼称は混乱の元になる。
 最大震度は6弱。震度階では上から2番目だ。

 日本:第二の都会・大阪にとっては、阪神・淡路大震災(1995年)以来の大地震だった。しかし、現地で最大震度7だった阪神・淡路大震災では大阪の北西部を除く大部分は無傷だったので、久々の大地震だった。

 朝8時前に地震があった。激しい交通渋滞があちこちで起きた。

 また関西では四通八達している私鉄では阪急、南海、阪神、京阪が全線で運転が止まったほかJRも各地で止まり、人々が線路を歩かされた。

 新淀川大橋などでは徒歩で帰宅する人で埋まるなど「通勤難民」も多かった。夕方だったらもっとひどかったに違いない。

 このほかエレベーターがある。ビル設備管理大手2社が把握しているだけでも計約3万4000台が停止した。

 復旧の順番は、最優先するのはエレベーター内に閉じ込められた人の救出、次いで病院などの建物、行政機関が入る公共施設、高さ60 メートル以上の高層住宅の順で復旧を進めることになっている。一般のマンションは最後になる。

 しかし、たとえ低層階でもエレベーターの停止が長期化し、生活への影響が深刻になった例が増えた。

 通勤難民、交通渋滞など大都会が地震に弱いことをまざまざと見せつけた地震であった。一方災害のほうは時代とともに増えていく傾向にある。

 東京や大阪などの都会には「木密地帯」といわれる古い木造住宅が密集した地帯が多い。

 東京でいえば、東京東部に限らず、山手線のすぐ外側に北部、西部、南部に広がっている。

 しかも、ここに住んでいる人たちは、行政が提供している耐震診断も耐震補強も、自己負担のハードルが高いために出来ない人たちが多い。これらの家屋は地震に限らず、各種の災害に弱い。

 大阪の最大震度6弱でも被災した家屋の99%もが「被災者生活再建支援法」の対象外になってしまった。公的支援が少ない「一部損壊」だったためだ。

 大都会の地震は、たとえ最強の震度ではなくても十分に恐ろしい。

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