島村英紀『夕刊フジ』 2023年7月14日(金曜)。4面。コラムその500「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

地球には「1日19時間」の時期があった
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「地球には「1日19時間」の時期があった 自転は2億年ごとに1日に約1時間ほど遅く 大地震でも速度や自転軸が変化」

 地球の歴史は46億年ある。地球が出来たときには地球の自転の速さははるかに速かった。1日は5時間もなかったのだ。自転は2億年ごとに1日に約1時間ほど遅くなっている。

 これは自転にブレーキをかける力が強いからだ。潮の干満による海水と海底の摩擦や、地球の岩全体が太陽や月の引力でゆがむ地球潮汐(ちょうせき)で、それぞれ大変な力である。

 大方の人は忘れているが、地球は宇宙に浮いている球だ。このほかに大地震がある。2011年3月に東日本大震災〈地震名は東北地方太平洋沖地震)が起きて、地球の自転速度が百万分の1.6秒だけ早くなった。巨大で重いプレートが地震のときに突然動き、それゆえ地球の質量の分布が変化したためだ。同時に、地球の自転軸も約15センチメートルずれた。地球の大事件は自転軸の位置にも反映される。
 
 いままでに起きた大地震でも地球の自転速度や自転軸が変化したことがある。たとえばスマトラ沖地震(2004年)では東北地方太平洋沖地震の4倍も自転速度が早くなった。

 だが、2億年ごとに約1時間だけ一様に遅くなっているのではなく、1日が19時間しかなかった時期が10億年続いたという学説が出た。約20億年前から10億年間だ。中国科学院・地質地球物理学研究所などの研究チームが行った研究だ。

 これはミランコビッチ説を援用したものだ。地球の軌道は一定の周期で揺らぎがあるほか、約10万年周期の公転軌道の離心率の周期的変化、約4万年周期の自転軸の傾きの周期変化と約2.6万年周期の自転軸の歳差運動の要素の影響がある。それがミランコビッチ・サイクルだ。セルビア人のミランコビッチが手計算で導き出した。

 地球の軌道は、10万年周期で円になったり楕円になったりと、伸び縮みしている。この離心率の変化により、それに合わせて太陽との距離が変わることなどをミランコビッチが提唱した。1910年代から1940年代はじめにかけてのことだ。

 ミランコビッチの説は彼が亡くなる1958年までに日の目を見ることはなかったが、1970年代以降その基本的考え方が広く受け入れられた。

 中国科学院の仮説の根拠は、月と太陽が引き起こす潮汐の引力の差だ。現在、月の潮汐と太陽の潮汐では、月のほうがずっと強い。だが大昔、地球が月から受ける影響はずっと小さかった。

 月の軌道が変わり、影響力が大きくなるにつれて、過去のどこかの時点で、月と太陽のブレーキが釣り合う時期があったはずだ。それが10億年続いたというのがこの学説の根拠だ。

 さて、もし1日が19時間だったら、人間は慣れただろうか。随分とせわしない生活に違いない。私たちは1日が24時間であることに感謝すべきなのだろう。

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