島村英紀『夕刊フジ』 2022年5月20日金曜)。4面。コラムその445「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

騒々しい硫黄島のいま

『夕刊フジ』公式ホームページの題は「年間1メートルの隆起が続く硫黄島 いずれ噴火するには違いない 現在は自衛隊と米兵だけが居住」

 硫黄島が騒がしい。本州の南1200キロメートルの常夏の島。小笠原諸島の南端近くにある。東西8キロメートル、南北4キロメートルの島で、面積は東京都北区とほぼ同じだ。島の最高地点は170メートル。平べったい島だ。

 年間1メートルという世界でも類を見ないペースで地面の隆起が続いていて、小規模な噴火もしょっちゅう起きる。ここは気象庁が全国に111指定する活火山の一つでもある。島内は地面の温度が高く、多くの噴気地帯や噴気孔がある。

 島の面積は1911年に19.3 平方キロメートルだったのが、第二次世界大戦時は20.3 平方キロメートルになった。その後も膨張を続け、2011〜2012年にかけては隆起が2メートルを超えた。この隆起のせいで父島をしのぎ、小笠原諸島で最大の島になった。いまの面積は23.73平方キロメートルある。

 小型で軽い私たちの海底地震計のテストを兼ねて設置したことがある。時間軸を早めて再生すると、ゴボゴボ、まるで温泉が沸き立っているような振動を記録した。地下ではマグマが温泉のように沸き立っているのだろう。身体に感じない小さい地震も数えると1日に100回を優に超える。

 硫黄島では、明治以来20回も水蒸気噴火や海面の変色があった。

 ところで硫黄島の北にある海底火山、「噴火浅根」で3月の末、噴煙が確認された。2021年に戦後最大の噴火が起き、軽石が沖縄にも流れ着いた福徳岡ノ場とは約130キロメートル離れているが、同じ東日本火山帯に属する。

 北硫黄島は硫黄島の北方約75キロメートルにあり、南方約58キロメートルには南硫黄島があり、この3島が火山列島を作っている。3島とも同じく元は海底火山の島だ。まわりに「噴火浅根」など、いくつもの海底火山がある。北硫黄島は1780年、1880年と1930〜1945年に噴火したことがある。

 「噴火浅根」の噴火はまもなく収まったが、硫黄島を含めて、いずれ噴火するには違いない。

 硫黄島は第二次世界大戦末期の激戦地として知られる。1945年2月から3月にかけて行われた硫黄島の戦いで、日本軍2万人以上が戦死し、米軍も戦死約7000名を出す大激戦が繰り広げられた。

 この結果、硫黄島は米軍に占領された。米国海兵隊の手で星条旗を掲げるときに撮った写真は、米国バージニア州にある戦没者の専用墓地、アーリントン国立墓地に建てられた海兵隊記念碑のモデルにもなっている。

 いま、ここには自衛隊と米兵だけが住んでいる。1968年に米国から返された復帰後の硫黄島は、海上自衛隊の硫黄島航空基地が置かれ、島内全域がその基地の敷地になっている。

 島の人々は帰りたがっている。だが、民間人の立ち入りはできない。

 島には食堂があり、自衛隊員と米兵のために24時間、開いている。

 国土地理院と気象庁などの職員も、定期的に観測のために訪問している。日本人の楽しみは米兵が持ち込んだ、日本では発行禁止になっている米国のポルノ写真集を見ることだという。

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