『青淵』(『青淵』(渋沢青淵記念財団(渋沢栄一記念財団)竜門社)、2005年5月号。12-14頁

アフリカの仮面との出会い

西洋や東洋の美術が到達し得なかった高みに達している「作品」

 北極や南極のような人が住んでいない雪や氷の世界で仕事をすることが多い私だが、そのため、無性に人恋しくなることがある。

 それゆえにか、集めているのがアフリカの各部族が祭事のために彫った木彫の仮面だ。これらの仮面は観光客用に媚びを売っている土産ではない。自分たちの祭事に使うための魂がこもっている。そして、これらの仮面は、西洋や東洋の美術が到達し得なかった高みに達している「作品」だと私は思う。

 たとえば、写真一を見てほしい。これはアフリカの西海岸に近いサハラ砂漠の内陸国、マリの面だ。これほど憂愁に満ちた表情を持つ仮面は、日本の能面を含めて、世界でもめったにあるまい。作った人にとっては宗教的なものに違いないが、この憂いの深さは、例えばジャコメッティをほとんど凌ぐほどの芸術に見える。緑と黄色の耳飾りの華やかさと憂愁のコントラストが見事だ。

 仮面の高さは24センチ。この仮面は木彫だが、木の上に薄い真鍮板を被せ、夥しい数の、丸い頭の釘で留めてある。これは、同国に住むマルカ部族の仮面の特徴である。

 じつは、アフリカの国々は、いまはたまたまひとつの国になっていても、そこに住む部族は、人種も文化も違うことが多い。フランス、英国、オランダ、ベルギーなどかつての列強である文明国の、いわば勝手な都合で、それぞれの国にされてしまったのである。

 このため、たとえば象牙海岸(コートジボアール)ひとつとっても、何種類もの違う種類の仮面がある。これはそれぞれの部族によって作る仮面がまったく違うからである。それゆえアフリカの西海岸の部族の仮面と東海岸のそれとは、まったくの別物である。

 フランス・パリの市内、新オペラ座の近くの裏町にあるピカソ美術館には、ピカソの描いた作品だけではなく、ピカソ本人が収集した絵や彫刻も飾ってある。これらにはピカソと親交があった画家の絵のほか、アフリカの木彫もある。動物とも人間ともつかない原始芸術風のアフリカの木彫もある。これらアフリカの木彫から、彼が芸術のインスピレーションを受けていたことは間違いがあるまい。


 写真二は同じマルカ族の、二本の角が生えた男の仮面である。角(つの)も木製の芯が金属板で丁寧に覆われている。製作の基本的な手法は写真一のものと同じだが、真鍮板を留めている釘の数は、こちらのほうがずっと少ない。写真一が釘の配置と数で表現している肌の質感を、こちらはまるで彫金のような真鍮板のディテールで表現している。

 この写真二の仮面が表そうとしているものは、西洋美術のジャコメッティが指向したものと遠くないように見える。くぼんだ眼窩と小さな口。デフォルメと簡略化と、そして必要なところは強調しているというバランスが絶妙である。

 写真ではちょっと見えにくいかもしれないが、両方のこめかみと、そこから下がった真鍮の長いもみあげの先に深紅のリボンが、合計四ヶ所に着いている。これらは、写真一と同様、金属の面に鮮やかな彩りを添えている。

 これは、兜を被った戦士の面ではないだろうか。部族のための闘いに赴く戦士の憂愁を表しているように見える。仮面の高さは39センチと、かなり大きなものだ。


 写真三は象牙海岸の女性の仮面だ。アフリカの仮面には比較的柔らかい木に彫って彩色したものも多いが、この仮面には彩色はない。その代わり、とても硬くて目が詰んだ木で、細部までじつに精密に彫られている。とくに頭髪の彫刻は細かい。彫るのには大変な手間がかかったに違いない。

 この仮面は、私には貴婦人の面に見える。みごとに鼻筋が通り、目が大きい。頬も唇も豊満だ。両眉が繋がっているのが不思議に見えるかもしれないが、これは象牙海岸の仮面の特徴である。

 美しいばかりではない。この仮面は、見る角度によって微妙に表情を変える。この写真の角度より、少し下から眺めると、ずっとふくよかで、もっと穏やかな顔になる。

 表情の品の良さ、穏やかさ、見える角度によって変える表情は、すぐれた日本の能面を凌ぐ出来栄えだと思う。仮面の高さは38センチある。

 ここでは私の集めた仮面全部を掲げる紙数はないが、なかにはジョアン・ミロ風のとぼけた丸顔も、穏やかな笑顔も、道化も、また、まるで秋田のなまはげのような怪奇な仮面もある。興味のある方は「魂の詩(うた)」と名付けて私のホームページ(http://shima3.fc2web.com/african-masks/)に、そのうち二十数個を公開しているので、ご覧いただきたい。

 私は、これらの仮面を西欧各国の蚤の市で買うことが多い。日本と違ってアフリカ美術は彼の地では美術品のジャンルのひとつになっていて、専門の店や画商のところに行けば、
驚くほど高い値段で、白人たちが売っている。

 しかし、この高い価格が、製作者や、画商以外の流通に関与した人たちに還元されていることは到底、考えられない。一種の搾取というべきだろう。

 しかし、道端で開かれている蚤の市では、仮面を作った人たちの後裔が、他の部族の面も並べて売っている。値段も、画商と比べれば、びっくりするくらい安い。いまのアフリカの国名ではこれこれだが、じつは部族にはこれとこれがあり・・、と言った詳しい話や由来を聞かせてくれる。しかし他の部族についてはほとんど知らないことも多い。

 だが、自分や一家が欧州に来た顛末を話してくれたり、一緒に売っている民族楽器を驚くほど器用に奏でてくれたりする。

 ヨーロッパとアフリカの結びつきは長くて深い。第二次世界大戦前には、多くの西欧の国がアフリカに植民地を持っていた。戦後、それぞれの植民地は独立を果たしたが、それまでの歴史の影響がいまだに強く残っている。たとえば、一般的にアフリカ西海岸の国々はフランス語、東海岸は英語が通じるのもその影響のひとつだ。

 私がつきあっている西欧の知識人の心には、アフリカに対する原罪という底流が流れている。それなりの文化を持っていたアフリカを、植民地として収奪して蹂躙してしまっただけではなく、現在に至るまで貧しくて病気も多く、安定しない状態にしてしまったという贖罪意識なのであろう。

 私の専門である地球物理学からいえば、そもそもアフリカには大地溝帯という大地の割れ目が走り、世界の他の地域よりはずっと高い地熱がある。ここは大陸プレートが割れていずれ大西洋のような海が誕生しようとしているところだ。この地球の息吹は少なくとも数百万年、つまり人類の誕生以前から続いている。

 地球上で最初の人類が発生したのがこのアフリカだ。また、地球上でプレートが陸上で誕生しているのはここだけだ。この二つに関連があるのかないのか、いまだ解けぬナゾとはいえ、なにかの関連を思いながら、遠い昔に思いを馳せさせてくれる仮面なのである。

(本文は約3200字。なお、このホームページに掲載するにあたって、間違いを直しました)

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