火災保険は地震の"あと"で出火しても支払われませんでした
地震保険にはいろいろな問題があります

(島村英紀『ポケット図解 最新 地震がよ〜くわかる本』(秀和システム=絶版)の8章12-13節に加筆)



 火災保険は兵庫県南部地震の"あと"で出火しても支払われませんでした

 阪神淡路大震災(1995年1月17日)後に発生した火災の発生件数は、兵庫県を中心として合計約290件あり、水道管も破損して水は出ず、消火能力をはるかに超えていたために火はその後何日も燃え続けました。この結果、燃えた建物数は合計約7500棟(うち全焼が約7000棟)、焼失総面積は約660000万平米にもなってしまいました。

 被災した世帯は9300以上にもなりました。このうち、ほとんどは延焼による被災です。このうち焼損面積が10000平方メートルを超える大規模火災11件は神戸市の長田区、兵庫区、それに須磨区の東部に集中しているなど、東灘区から須磨区にかけての一帯でとくに火災の被害が多く出てしまいました。

 火災は地震直後に発生したものもあります。しかし地震後2-3日目に発生した火事も多く、なかには1週間以上、さらには地震の9日もあとに発生した火災もありました(右の表を参照)。

この中には送電が再開されたために発火した「通電火災(下記註=『ポケット図解 最新 地震がよ〜くわかる本』、270頁)」もかなり含まれていたと考えられています。しかし、最終的な火災発生原因の多くは原因不明とされています。

 地震保険に入っている人はまだ少ないのですが、火災保険に加入している人は全国どこでもずっと多いのです。阪神淡路大震災を被った人々の多くも火災保険(や火災共済)には入っていました。

 しかし、被災者の要求に対して、どの損保会社や共済組合も「地震免責約款」があることを理由にして火災保険金や共済金の支払いをしませんでした。

 火災保険の約款には地震免責条項(地震免責約款)は、損保各社とも次のような表現に統一されています。

『当会社は、次に掲げる事由(地震、噴火、またはこれらによる津波)によって生じた損害または傷害(これらの事由によって発生した前条(保険金を支払う場合)の事故が延焼または拡大して生じた損害または傷害、および発生原因のいかんを問わず前条(保険金を支払う場合)の事故がこれらの事由によって延焼または拡大して生じた損害または傷害を含みます)に対しては、保険金を支払いません』。

 しかし、この地震免責条項は法律の専門家から見ても言葉が入り組んでいて難解なものです。一般の人たちが理解するのは容易ではありません。もちろん、ほかの保険の約款と同じく、虫眼鏡を使わないと読めないような小さい字で書いてあります。

 じつは「(地震によって)延焼または拡大して生じた損害または傷害」との規定は、具体的にどんな場合がこれに当たり、どんな場合がこれに当たらないのか、はっきりしていません。それゆえ、地震免責条項は損保会社の判断で、損保会社の都合のいいように無限に拡大解釈されることにもなりかねないのです。

 実際、阪神淡路大震災のときにも「地震直後に火が出たのならともかく、何日もたったあとでの原因不明の出火なのに火災保険を支払わないのは納得がいかない」「損保会社は地震免責とそれ以外の火災の線引きをどこでするのか合理的に説明してほしい」といった不満が多くの被災者から上がりました。

 また、「地震免責約款の存在を知らされていなかった」「契約時に地震免責約款の説明がされなかった」という不満もありました。

 ローンによって建てた家が焼けて多額のローンだけが残ってしまって自力で生活を再建出来ない人たちも多かったわけですから、火災保険金の支払いがあれば住宅や生活の再建が可能になる、という必死の人たちは多かったのです。

 結局、損保会社や共済組合は、火災被災者に対して火災保険金を支払わない理由を説明しないまま、保険金を支払いませんでした。

 商法665条という法律では「火災に依りて生じたる損害は、その火災の原因いかんを問わず保険者は、これを填補する責に任ず」と規定されています。火災による損害が発生すれば損保会社が契約者に火災保険金を支払うことが原則なのです。

それゆえ地震免責条項を作って支払いを拒否するのならば、損保会社の責任で、火災の原因や延焼の経過などを独自に調査するべきです。また保険の契約者に対して、その調査内容を報告し、火災保険金を支払わない具体的な理由や、それが地震免責条項のどの部分に該当するのかといったことを説明しなければならないはずなのです。

 しかし損保会社がどんな調査を行ってどんな判断をしたのかという、保険の加入者が本当に知りたい具体的な報告や説明がされた例はほとんどありませんでした。

 ところで損保会社は阪神淡路大震災の火災ではごく一部の被災者には支払いを行っていました。例えば地震の2日後に神戸市中央区内の三宮で発生した火災では数社が支払いを行ったと報じられましたし、他にも同一の火災で焼失した地区のうちの一部の被災者にだけ火災保険金が支払われたケースがあるとも言われています。

 しかし、損保各社は顧客に対する守秘義務を理由にして、どんな具体的判断基準によって保険金を支払ったのかは明らかにしませんでした。

保険会社は、保険契約者の重要なプライバシーを侵害しない事項だけでも公表し、支払がされなかった他の契約者の不信感をぬぐい去らなければならない社会的責任を負っているのではないでしょうか。


 地震保険には、改良されてきたとはいえ、まだ、いろいろな問題があります

 地震保険は新潟地震(1964年)をきっかけにして1966年に誕生したものです。損保各社が発売する地震保険のほかにも、農協(JA)の「建物更生共済」や全労済の「自然災害共済」などの同じような仕組みがあります。

 最初の地震保険は、建物の補償限度は90万円まで、家財は60万円まで、それも全損のときだけ支払われる仕組みでした。また一回の地震での支払限度額は3000億円で、もしそれを超えたら、総額を分ける仕組み、つまりそれぞれの支払は減額される仕組みになっていました。

 保険料は、当時は日本を1等地から3等地までの3つの地域に分けて、それぞれ違った保険料を払うことになっていました。このときいちばん保険料が高い3等地は、東京都の墨田区・江東区・荒川区、神奈川県横浜市の鶴見区・中区・西区、それに川崎市の東海道線以東の区域と定められていました。

1等地と3等地の保険料は木造の家で2.4倍、木造でない(コンクリートなどの)家では3.8倍の違いがありました。1等地と2等地は、当時の地震学の知識で、大地震が起きやすい場所と、そうではない場所に分けられていました。

 しかし、半壊や一部損壊では保険金が支払われないことや、全体の支払限度額が低すぎて大災害のときには保険金が切りつめられてしまうことなどのいろいろな問題が指摘され、その後何度か変更されました。また、それぞれの時代の地震危険度の知識に応じて、日本の区域分けも何度か変更されました。

 しかし、それぞれの地域の地震危険度、つまり大地震が起きやすい場所と、そうではない場所を知ることは、じつは難しいことが近年になって分かってきました(『ポケット図解 最新 地震がよ〜くわかる本』、
209頁)。

それぞれの地域で想定される大地震というものに定説はありません。「活断層のないところでは内陸ではマグニチュード6.5を超える地震はない」という、現在の地震学では誤った想定のもとに原子力発電所が作られている(244頁)など、将来それぞれの場所でどのくらいの地震が起きるかは分かっていないのです。

 それゆえ、この地震危険度は、それほどの学問的な根拠があるものではありません。つまり、事故と支払の統計がちゃんとあって、それに応じて保険料が厳密に決まっている自動車保険とは違って、高い保険料を払っている地域の人は、あるいは損をしていて、その逆もあるのかも知れないのです。

 現在の地震保険は1等地から4等地までの4区域になっています。保険料は木造の家で3倍、木造でない(コンクリートなどの)家では3.5倍の違いがあります。いちばん保険料が高い4等地になっているのは東京都、神奈川県、静岡県で約3倍違います。

補償限度は建物5000万円まで、家財は1000万円までに引き上げられました。しかし全体の支払度限度額があるのは同じで、この額は2005年からは5兆円になっています。

もしこれを超えたら、保険金が切りつめられてしまうことは最初の仕組みとと同じです。なお、この5兆円のうち損保会社が負担するのは約18%で、あとは政府が支払うことになっています。

 なお、地震保険は単独では入れません。火災保険とセットにしないと加入出来ず、支払額も火災保険の保険金額の30%から50%の範囲内と決められています。つまり地震で全焼してしまっても、最大でも火災保険の半分しか支払われないのです。また、工場や事務所は対象外です。

 ところで最初の仕組みとは違って、いまでは、全損だけではなくて半損(半壊)や一部損(一部倒壊)でも保険金が支払われるようになりました。

全損の場合は保険金額の100%が支払われ、半損の場合50%、一部損の場合は5%が支払われる仕組みです。

なお、損害が「一部損」に達しない場合は、保険金はまったく支払われません。

 ここで損保会社がいう半損とは「建物の場合、主要構造部の損害の額が、その建物の「時価」額の20%以上50%未満になった場合、または焼失あるいは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の20%以上70%未満になった場合」とされています。

つまり、最悪の場合は70%も壊れてしまったとしても、保険金は半額しか支払われないのです。しかも、損保会社は「時価」を適用します。

時価額とは、同じものを新たに建築あるいは購入するのに必要な金額から使用による消耗分を控除して算出した金額で、少しでも使ったものは減額されてしまうのです。

 一部損でも、事情は同じです。建物の主要構造部が、その建物の「時価」額の3%以上20%未満になった場合に、最大でも保険金額の5%が支払われるだけです。つまり地震で損害を受けた分だけ地震保険がカバーしてくれるわけではないのです。

 知っておいたほうがいいことは、建物の土台や柱などの主要な構造部に被害があったときだけにしか支払われないことです。たとえば塀が倒れても支払われません。また家財は損害額が時価の10%以下では支払われません。

 マンションでも地震保険をかけることが出来ます。しかし自分の持ち分以外の共用部分の修復には、個人の地震保険はきかず、管理組合としてマンション全体の加入が必要です。

2005年に起きた福岡県西方沖地震のときには福岡県内のマンションの8割は、管理組合が地震保険に入っていませんでしたが、じつは被害が大きかったのは共用部分だったのです。

 地震保険はどの保険会社でも同じものですが、付帯する特約が違うものがあります。

たとえば地震保険を上限の火災保険契約額の50%まで加入している場合、さらに30%上乗せして計80%を補償する特約が付けられるものや、地震や災害で住居に住めなくなった場合に仮すまい費用として宿泊費などを払う特約のある損保会社もあります。

 毎日新聞が2004年12月に行った調査では 地震保険に加入しているとの回答は29%でした。なお損保会社の発表によれば2004年度の火災保険の「新規」加入者に限れば地震保険を付けた人の割合(付帯率)は37%で前年度より2.5%増えているそうですから、地震保険の契約者は少しずつ増えているのでしょう。

 毎日新聞の調査では、加入していないと回答した35%の人に理由を聞いたところ、「地震保険の内容をよく知らないから」が33%でいちばん多く、「保険料が高いから」が30%でそれに続き、「必要性を感じないから」が21%、「補償額が低いから」が12%でした。

 地域別では中国が37%で最も高く、南関東35%、北関東32%と続きますが、最低は北海道の21%で、東北、九州、東京都も26%にしかすぎませんでした。

 阪神淡路大震災のときには損保会社が支払った地震保険金の総額は2000億円でした。一方、国民の義捐金は全国から1500億円もが集まりました。いまの仕組みの地震保険では地震保険は国民の義捐金なみの救いにしかなっていないのです。これ以上の普及にはまだ壁がありそうです。


註)「通電火災」とは(『ポケット図解 最新 地震がよ〜くわかる本』、8章4節「地震の直後に心すべきこと」270頁から)

 地震の揺れが収まって、少しでも落ち着いたら、すべきことがあります。

 津波や土砂災害が起きそうなところでは、まず、その対処が必要です。海岸では津波が来る前に、すぐに高い土地へ避難しましょう。高い土地が近所にない場合は鉄筋コンクリートのなるべく高い建物に避難しましょう。4階以上ならまず安心です。

 また、土砂災害が起きそうなところでは、やはり一刻も早い避難が必要です。とくに地震後に雨が降ると、地震でゆるんでいた地盤が崩壊することが多いのです。

 津波や土砂災害の心配がないところでは、まず第一には、すばやく火の始末をすることでしょう。足の踏み場もなくなっているかも知れませんが、あわてず冷静に、調理器具や暖房器具などの火を確実に消します。

 今のガスメーターは多くの場合、地震遮断器がついていてガスは止まる仕掛けがついています。しかし念のため、ガスの元栓は締めたほうがいいでしょう。

 十分気をつけなければいけないのが、じつは「通電火災」の用心です。地震直後は送電線が切れたりしていて停電していることが多いのですが、電力会社は一刻も早く復旧しようとします。

 そして、住民が住んでいるいないにかかわらず電力会社が送電線をつないで、つまり区域ごとに一斉に通電します。そして、電気を流したときにスイッチが入ったままだった電気器具や、壊れた電灯や、壊れたり押しつぶされていた電気器具や電気配線から出火することがあるのです。これが通電火災なのです。これは、米国でも地震のあとの多くの火災の原因になっています。

 阪神淡路大震災のあと、こうして電力が復旧してからしばらくして通電火災と思われる火事があちこちで起きてしまいました。阪神淡路大震災であれほどの火災の被害が出た一因は通電火災だったのです。


茶色の字の部分は、『ポケット図解 最新 地震がよ〜くわかる本』(秀和システム)にはなく、加筆したものです。

『ポケット図解 最新 地震がよ〜くわかる本』(秀和システム)は、コンピューター関係の本の出版社のせいでしょう、まるで雑誌のような、本の寿命の短い売り方をするようで、早々と絶版にしてしまいました。本の種類が多すぎるので、在庫・税金対策上、
絶版が早くなっているとのことです。より多くの方に、とくにこの章を読んでいただきたくて、ホームページに(加筆して)再掲しました。

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