4月4日、満月の日に皆既月食が見られる。始まりは20時54分、終わりは21時6分だから夜桜と一緒に見る人も多いだろう。
皆既月食はそれほど珍しいものではない。日本では前回は2014年10月8日にあったし、次回は2018年1月31日にある。部分月食ならもっと多い。しかし今度のように桜の季節に皆既月食が見られるのは28年もあとのことである。
月食は太陽と地球と月がこの順に一直線に並ぶときに起きる。
天体の中を太陽が通っていく道を「黄道(こうどう)」というが、これが月の通り道「白道」と一致したところを太陽と月が通るときに月食や日食が起きる。
いまはこの時期だ。このため、半月前の新月だった3月20日には欧州で日食が見られた。欧州北部と北極海では皆既日食になった。
皆既日食は地球よりも4分の1くらいも小さな月の影に地球の一部が入るときに起きる現象だから、地球の影に月が入る月食よりは、見られるチャンスがずっと少ない。日本でこの前皆既日食が見られたのは2009年7月22日だったが、次は2035年9月2日、その次は2063年8月24日になってしまう。
じつは現代科学では解けていないナゾがある。月よりも400倍大きな太陽が、地球と月までの距離のぴったり400倍のところにあることだ。このため、太陽がちょうど全部隠れる皆既日食が起きる。だが、なぜ400という数値がたまたま一致しているのかは、いまだに説明できないことなのである。
しかし月はしだいに地球から離れていっている。その速さは年に約3センチメートル。いずれは皆既日食はすべて金環食になり、そのうちには太陽を隠すべき月が小さくなって、日食とは言えないくらいまぶしいものになるに違いない。
ところで日食には近代文明の意外な落とし穴があることが分かった。
欧州のほとんどでは部分日食だが、それでも日食が始まると太陽光発電の発電量が急減し、終わると急増する。このため電力供給が不安定になる懸念があったのである。
たとえばドイツでは2014年の電力消費量の18%が太陽光発電でまかなわれた。もし快晴ならば、日食によって全欧州で発電量がほぼ同時に3400万キロワット急減すると算定されていた。これは中規模の従来型発電所80か所分の発電量にも相当する。
太陽光を発電源とする電力が日食によって一挙に失われるという前例のない試練。このため欧州各国の送電網を運用する電力各社では対応するための危機管理計画が導入されていた。
現在の太陽光発電量は欧州で最後に日食が観測された1999年当時の発電量の100倍にも達している。だから危険はずっと大きくなっている。
はるか昔には日食や月食はなぜ起きるのか分からない恐怖の対象だった。その後原理が分かり、ずっと、たんなる天体ショーになっていた。
だが現代はふたたび恐怖をもたらすものになっているのである。
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