御嶽の噴火での犠牲者は50名を超えて戦後最大の火山災害になってしまった。
だが火山噴火の規模からいえば、日本で過去に起きた噴火に比べるとこの噴火はごく小さなものだったのである。
今回、御嶽が噴出した火山灰や噴石の総量は50-100万トンだった。容積にすれば20-45万立方メートルだ。
東京ドームの容積が124万立方メートルだから、今回は東京ドームの半分以下の量の火山灰や噴石が噴火によって飛び散ったことになる。
もちろん大変な量だ。しかし19世紀までの日本では、各世紀に4回以上の「大噴火」が起きていた。「大噴火」とは東京ドームの250杯分、3億立方メートル以上の火山灰や噴石や熔岩が出てきた噴火をいう。つまり今回の御嶽噴火の500倍以上もの規模の噴火が日本では繰り返されてきているのだ。
ところが20世紀になると大噴火は1914年の鹿児島・桜島の大正噴火と1929年の北海道の函館の近くにある駒ケ岳の噴火のたった2回だけだった。その後現在まで100年近くは「大噴火」はゼロなのである。理由はわかっていない。しかしこの静かな状態がいつまでも続くことはありえない。
さらに大きな噴火もあった。7300年前の鹿児島・鬼界(きかい)「カルデラ噴火」だ。放出されたマグマは東京ドーム10万杯分にもなった。この種の「カルデラ噴火」は日本では数千年に一度ずつ繰り返されてきたことが分かっている。約9万年前に起きた阿蘇山のカルデラ噴火では火砕流(かさいりゅう)が九州北部はもちろん、瀬戸内海を超えて中国地方まで襲った。
鬼界カルデラにある硫黄島は薩摩半島の南方50キロにある。大量に出た火山灰は関西では20センチ、遠く離れた関東地方でさえ10センチも降り積もった。
世界史では火山の大噴火で滅びてしまった文明はいくつかある。
鬼界カルデラの噴火でも九州を中心に西日本で先史時代から縄文初期の文明が断絶してしまった。縄文初期の遺跡や遺物が東北地方だけに集中しているのはこの理由だと考えられている。
今回の御嶽山噴火では死者の7割が山頂付近に集中していた。つまり比較的小さな噴火が、晴れた紅葉の季節に山頂付近に集まっていた登山客を集中的に襲ったのだ。その意味では、噴火の規模に比べると大変に不幸な事件が起きてしまったことになる。
だが、もしもっと大規模な噴火が起きれば山頂付近だけではなくて山麓の人々や観光施設を襲う可能性が多分にあった。
登山客が集まる活火山は御嶽山だけではない。観光シーズンの富士山は数千人以上もの登山客でにぎわっているし、同じく活火山である箱根も人が多い。青森県の十和田湖や 宮城と山形にまたがる蔵王山もそうだ。日本では観光で人が集まる地域は活火山が作った景観のところが多いのである。
「大噴火」が21世紀には少なくとも5〜6回は起きても不思議ではないと考えている地球物理学者は決して少なくはない。
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