島村英紀『夕刊フジ』 2023年6月9日(金曜)。4面。コラムその496「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「摩天楼の重さでニューヨークの地盤沈下が進んでいる? 毎年1〜2ミリ…浸水の危険性 東京も他人ごとではない」
米国の最大都市ニューヨークで、エンパイア・ステートビルやクライスラービルなど摩天楼の超高層建造物の重さが原因で、それに伴う地盤沈下が進んでいるという研究が米国・地球物理学連合が発行する学術誌で発表された。
約840万人が暮らすニューヨーク市は海抜が低く、地球温暖化に伴う海面上昇による浸水リスクが、もともと高い。1950年以降、同市周辺の海面水位は22センチも上昇している。
ニューヨーク市周辺の海面は世界の2倍を超すペースで上昇していて、2050年までにはさらに約20〜76センチ上昇するとの予想がある。海面の上昇と気候変動によるハリケーンの強大化のせいで、今世紀末までには、暴風雨による大規模な洪水の頻度が、今よりも最大4倍になる可能性があるという。
しかも気候変動の影響で、ハリケーンなど豪雨をもたらす災害は一層頻度を増す見通しだ。
海面の上昇と気候変動によるハリケーンの強大化のせいで、今世紀末までには洪水の頻度が、今よりも最大4倍になる可能性がある。
ニューヨーク市では2012年にハリケーン「サンディ」による大きな高潮被害に見舞われ、ラガーディア空港のほぼ全域が浸水した。地下鉄の一部も浸水して、広範囲に停電などの被害をもたらした。2021年にはハリケーン「アイダ」で生じた洪水で10人以上が亡くなった。犠牲者の多くは、家賃の安い地下室に暮らす低所得層だったという。科学者たちは、どちらのハリケーンも地球温暖化の影響で事態が悪化したと考えている。
ニューヨーク市の100万棟を超える建物の総重量は約8億トンある。この結果、建築物の重さで地盤が沈下している可能性があることがわかった。建築物の重さと海面上昇が浸水の危険性を増大させている。重さは重量級の航空機である満員のボーイング747-400型機のなんと190万機分、あるいはゾウ1億4000万匹分の重さと同じだ。ニューヨーク市は毎年平均1〜2ミリ沈んでいる。
地盤沈下は洪水の原因となる恐れがあり、ほかの都市も含めて世界的な問題だ。ロードアイランド大学の研究チームが世界99都市について行った調査では、沿岸の都市の大部分が地盤沈下の問題を抱えていた。
例えばインドネシアでは首都ジャカルタで急速に地盤沈下が進んでいることから、政府が首都を移転させる計画を打ち出したほどだ。
S
東京も他人ごとではない。九段(靖国神社の前)に灯台が残っているように、そこから下の新橋、銀座、汐留など、もともと低湿な土地に高いビル群があり、無節操に高層ビルが建てられている。
土壌が柔らかいほど、上にある建物からの圧縮が大きくなる。巨大建造物を建てるときは、その分だけ地面を押し下げていることを考えておかなくてはならないはずだ。
この記事は
このシリーズの一覧は