島村英紀『夕刊フジ』 2023年6月2日(金曜)。4面。コラムその494「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

メキシコ・ポポカテペトル山の活動が活発化
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「世界で最も危険な火山≠ニ富士山の共通点 メキシコ・ポポカテペトル山の活動が活発化」

 メキシコ・ポポカテペトル山の活動が、またも活発化している。この火山は世界で最も危険な火山とされている。

 首都メキシコシティをはじめ人口の多い3州にまたがる火山で、メキシコシティ中心部から55キロほどの距離にあり、半径100キロ以内に約2500万人が住む人口稠密地帯にある。

 メキシコの国家市民保護調整局(CNPC)は5月21日、警戒レベルを「黄色フェーズ3」に引き上げ、周辺の住民約300万人に避難準備を呼びかけた。噴煙や火山灰、溶岩の噴出が山麓から見られたので、警戒レベルを「黄色のフェーズ3」に引き上げた。このフェーズは「避難準備」勧告で、この上の「赤色」は避難命令になる。

 CNPCはまた、火山活動が活発化して火山灰が降る恐れがあるとして、屋外での活動を控えるよう住民に勧告した。

 メキシコシティの国際空港が閉鎖され、翌22日は火山灰のため一部の便に遅れが出た。今後も遅れや欠航、空港の一時的な封鎖などが続く可能性がある。

 地元の各州は自治体が学校の対面授業を中止したり、オンライン授業に切り替えたりしている。

 この山の名前は先住民の言語ナワトル語で「煙の山」を意味する。高さは5426メートルあり、富士山よりも高い。メキシコ国内でもオリサバ山(5760メートル)に次いで2番目に高い山だ。

 この火山は1993年に噴火するまで火山活動は休止状態にあった。つまり1000年あまり大規模な噴火を起こしていない時期が続いた。大規模な噴火を起こしていない長い間に、首都をはじめ多くの人が火山の近くに住み着いたわけだ。

 だが、一転、過去30年にわたって活動が活発化した。1993年以降、火山活動が盛んになり、前が見えないほどの降灰や、ごう音の響きは周辺住民にとって日常茶飯事になっている。

 この火山は以後、数年おきに小〜中程度の爆発的な噴火をおこしながら、過去30年にわたって噴火が続いている。

 1994年には一晩で14回の噴火があった。14回の噴火が起きたのは現地時間の午前1時から同7時15分までで、翌日に1回、翌々日にもさらに3回発生した。噴煙だけではなく、水蒸気の発生、ガスの放出もあった。さらに豪雨が発生したら、地滑りや土石流を引き起こす恐れがあるとして同山の谷間から退去するよう当局が促した。

 この火山は、1993年以来約30回の噴火記録がある。大きな噴火も15回が確認されている。2000年に噴火したときには、周辺住民約5万人が避難せざるを得なかった。

 長年、噴火しなかった火山。1707年の噴火以来、静かな状態が続いている富士山と似ていなくもない。火山の周辺に住む人々が火山のことを忘れているのも同じだ。

 死火山や休火山という言い方は、休火山だと思っていた木曾御岳が1979年に突然、噴火してから、なくなった。

 たとえ、しばらく噴火していなくても、噴火する可能性を秘めているのが火山なのである。地球にとって、300年や1000年は、つい昨日のことなのだ。
 
この記事
  このシリーズの一覧


島村英紀・科学論文以外の発表著作リストに戻る
島村英紀が書いた「地球と生き物の不思議な関係」へ
島村英紀が書いた「日本と日本以外」
島村英紀が書いた「もののあわれ」
本文目次に戻る
テーマ別エッセイ索引へ
「硬・軟」別エッセイ索引へ