島村英紀『夕刊フジ』 2023年4月28日(金曜)。4面。コラムその490「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

アフガン北東部でM6.5 動き続けるインド亜大陸
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「動き続ける亜大陸、昔は南極と地続きだったインドとスリランカ ユーラシアとの押し合いが起こしたアフガン北東部のM6.5地震」

 マグニチュード(M)6クラスの地震が三陸沖で起きたときに、アイスランドからお見舞いのメールが来たことがある。世界的に見れば、M6は地震としては十分大きなものであろう。幸い日本には被害はなかった。

 アフガニスタン北東部で3月末にM6.5の地震が起きた。アフガニスタンとパキスタンで険しい山脈で知られるアフガニスタン付近。被災地は地形の険しい遠隔地で救援・救助活動には時間がかかると思われる。

 日本での記事はわずか1日で消えた。元はベタ記事の扱いだった。

 しかし、14人の親族にとってや、報道されなかった犠牲者の親族にとっては、何千、何万の人々が犠牲になった地震と変わるまい。

 かつて 北海道大学で修士論文の発表があった。そのひとつが、スリランカで取ってきた岩の分析だった。南極の地質の研究のためだ。

 え、南極、と驚くかもしれない。スリランカもインドも、昔は南極と地続きだったのである。

 インド大陸も南極大陸もゴンドワナ大陸という大きな大陸の一部だった。約一億年前、この大陸は分裂し、インドとスリランカはインド亜大陸として/南極を離れて、赤道を越えてひたすら北上を続けることになった。

 やがてインド亜大陸はユーラシア大陸に衝突した。4000万年前、地球の歴史を1日にたとえたときに、今から12分前のことだ。日本列島がユーラシア大陸から分かれて出来た倍ほど昔である。

 その後も、インドを載せたプレート、インド亜大陸は動き続けている。つまり、インド亜大陸はユーラシアと押し合いを続けているのだ。

 世界の屋根、ヒマラヤは、こうした押し合いの結果、プレートがまくれあがって出来た。だからヒマラヤは、いまだに、ゆっくりながら高さが高くなっていっている。ヒマラヤの山頂で海に住む貝の化石が見つかったことがある。

 インド亜大陸が動こうとしている限り、この種の地震は、インドの亜大陸の北にあるアフガニスタン、パキスタン、ネパール、ウズベキスタンなどの国々で地震は続く。

 プレートの動きのせいでこれらの国々は地震常襲地帯なのだ。これらの国々は、また、大地震に襲われる運命にある。

 つまり火薬庫の上で暮らしているようなものだ。

 他人の国のことは言えまい。プレートが4つも衝突し、わかっているだけでも活断層が2000もある日本に住んでいる日本の私たちもまた、火薬庫の上で暮らしているのである。

 
この記事
  このシリーズの一覧


島村英紀・科学論文以外の発表著作リストに戻る
島村英紀が書いた「地球と生き物の不思議な関係」へ
島村英紀が書いた「日本と日本以外」
島村英紀が書いた「もののあわれ」
本文目次に戻る
テーマ別エッセイ索引へ
「硬・軟」別エッセイ索引へ