島村英紀『夕刊フジ』 2023年1月13日(金曜)。4面。コラムその476「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 


米国西部で地震。13人死傷、7万戸が停電

夕刊フジ』公式ホームページの題は「米国西部で地震13人死傷、7万戸が停電 サンフランシスコで32年までにM6・7以上の地震が起きる確率は62%」

 さる12月、米国西部のカリフォルニア州でマグニチュード(M)6.4の地震が起きた。

 この地震で地元の住宅や事業所など9万戸のうち7万戸が停電し、13人が死傷した。広範囲で道路や住宅への被害も出て、地元のフンボルト郡とすぐ南にあるカリフォルニア州をつなぐ幹線道路の橋にひびが入って通行止めになった。店舗のショーウィンドーが割れて、すき間から雨が入らないように板を立てかける人々の姿も見られた。

 地震は不公平に起きる。日本ではどこに起きても不思議ではないが、たとえば米国では西海岸を除けば地震はほとんど起きない。カナダやインドでも地震は起きない。

 震源は同州フンボルト郡から約24キロ離れた太平洋の海底。サンアンドレアス断層が海に入っているところだ。

 つい1月に入ってからもM5.4の地震があった。2週間たらずの間で2回目の地震となる。この地震では発生後の対応から「復興段階」へと移っていたが、今回震源が近かったために町が大きく揺れたので「対応段階」に戻った。

 震源は今度は陸上だった。震源はフンボルト郡ユーレカの南約48キロで、震源の深さは約27キロ。サンアンドレアス断層が海に入る寸前のところだ。

 じつは11年ぶりの地震が2011年12月に起きていた。M6.2。建物などに被害が出た。地元の人たちは11年ぶりということでさぞびっくりしただろう
 今度の12月の地震はM6.4。2011年の地震より2倍も大きく、死者が出た。

 サンアンドレアス断層という長さ1300キロもある長大な活断層が米国西岸を走っていて、たびたび大地震を起こしている。もっとも有名なものは1906年に起きたサンフランシスコ大地震(Mは7.9と推定)で、甚大な被害を生み、3000人が死亡し22万人が家を失った。米国の都市で起きた最も被害の大きい災害になった。

 少なくとも50ヶ所で火の手が上がり火は3日間燃え続け、中心部の商業地区が焼失、サンフランシスコ市庁舎が崩壊した。陸軍は残っている建造物をダイナマイトで爆破して防火帯を作った。

 以後、サンフランシスコでは耐震建築が推奨され、たとえば建物では内部の人が逃げ出しやすいように、外側に開くように義務付けられている。

 地震を起こすサンアンドレアス断層は北へ走って行って、その尻尾は、オレゴン州の沖で太平洋のなかに消えている。断層の動きや成立ちを調べるためには、断層の端を調べることが重要だ。

 そのフンボルト郡の港町から私たちが作った海底地震計で観測に出かけた。カリフォルニア大学との共同研究だった。

 さて、サンアンドレアス断層の北の端で起きている地震はサンフランシスコ大地震のような地震に結びつくのだろうか。それとも地元の地震で終わるのだろうか。地元や地震学者は固唾をのんで見守っている。

 2003年にアメリカ地質調査所(日本の気象庁にあたる)が出した予測では、サンフランシスコで2032年までにM6.7以上の地震が起きる確率は62%と高くなっている。

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