島村英紀『夕刊フジ』 2022年12月9日(金曜)。4面。コラムその472「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 



「世界最大の活火山」38年ぶりに噴火

 

『夕刊フジ』公式ホームページの題は「「世界最大の活火山」38年ぶりに噴火 この先どうなるのか…全く予測がつかず」

 11月に世界最大の活火山として知られる米ハワイ島のマウナロア火山が38年ぶりに噴火した。いまのところ近隣住民への脅威はないと見られている。火山の警戒レベルは「勧告」から最高の「警戒」に引き上げられた。

 マウナロア火山の標高は4169メートル、面積は5180平方キロメートルある。海底からの高さは10000メートルを越える。マウナロア火山の噴火は前回の1984年から今回までの間隔は、この間で最も長かった。


 この火山のある島、ハワイ島の人口は約20万人と、1980年から2倍以上に増えている。前回の噴火から急激に増えた。インフラにとっては極めて大きな破壊力を持つ恐れがある。住民が火山ガスで呼吸障害を起こす可能性もある。


 この火山の噴火は精密な火山記録が始まった1843年以降、33回目だ。


 かつて溶岩流の流れを変えようと、飛行機からの爆撃が行われた。1935年のことだ。


 同年にマウナロアが噴火し、赤熱した溶岩が当時人口1万6000人のヒロの町に向かって流れ下った。


 アイスランドのヘイマエイ島やスペイン領のカナリア諸島のラパルマ島でコンクリートを置いたが、溶岩の比重が2 以上とコンクリートと違わないので、コンクリートが流されてしまって失敗した。


 ハワイの爆薬投下はキーストーン・エアクラフト製の複葉爆撃機B-3とB-4の小部隊が、ヒロに迫る溶岩流を狙って20発、TNT換算で3トン強分の爆弾を投下したが溶岩の流れは止まらなかった。


 その前の大噴火だった1881年の夏、噴火に立ち向かうため、ヒロの村人たちは岩壁を築いたが、壁はあっという間に溶岩流にのみ込まれてしまった。


 コンクリートをはじめ爆薬投下など、この種の回避策で危機を完全に防げた作戦は1つもない。


 その前の1881年のときにはハワイ王国を建国したカメハメハ大王の子孫である王女が現地を訪れ、火山の女神ペレに祈りを捧げ、ブランデーやスカーフなどを供えた。


 まもなく溶岩流は止まったが、たまたま火山活動が止まったものかもしれない。


 過去には噴火が1日で止まったこともあったし、何日も続いたこともあった。1859年の噴火は300日間続き、溶岩が長さ52キロも流れ出て、近隣の村や貴重な自然資源を破壊した。それから91年後、1950年の噴火はわずか23日で終息したが、3億7600万立方メートルもの溶岩を噴出し、ハワイ島のインフラが破壊された。今回の噴火の前の1984年の噴火では、ヒロ市がのみ込まれるところだった。


s 地球物理学からいえば、ハワイ島の南東にあるロイヒという海底の高まりが島になり、ハワイ島の火山活動が終わる。ただし数万年以上先の話だ。

 
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