島村英紀『夕刊フジ』 2022年11月18日(金曜)。4面。コラムその469「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 



「耐震・免震・制振」この3つは別物

『夕刊フジ』公式ホームページ
の題は「「耐震・免震・制振」この3つは別物 高層ビルで制振装置の誤作動…地震対策が裏目に」
 


 この9月のことだ。仙台市の繁華街でホテルが入る建物が深夜に突然音を立てて揺れだし、宿泊客、およそ370人全員が一時退避する騒ぎがあった。建物は18日午後11時ごろに突然揺れ始め、19日午前0時ごろに宿泊客を屋外に避難させ、近隣のホテルに誘導した。避難の際に40代女性が転んで軽いけがをした。

 この9月のことだ。仙台市の繁華街でホテルが入る建物が深夜に突然音を立てて揺れだし、宿泊客、およそ370人全員が一時退避する騒ぎがあった。建物は18日午後11時ごろに突然揺れ始め、19日午前0時ごろに宿泊客を屋外に避難させ、近隣のホテルに誘導した。避難の際に40代女性が転んで軽いけがをした。

 この建物は13年前に建てられた高層ビルで、ホテルのほかショールームや事務所なども入っている。揺れだしたのが深夜だったので、ホテルの宿泊客だけが退避する羽目になった。

 そのときには地震もなく、まわりの建物も揺れていないことから、原因は制振装置の誤作動だと考えられる。地震対策が裏目に出たわけだ。

 建物の地震対策には、耐震と免震と制震の3つがある。まぎらわしいが別のものだ。
耐震は地震に耐えるように丈夫に作ることで、地震に耐える基本である。

 しかし大きな建物、高層ビルだどでは十分に強くすると窓が小さくなったり、床の面積が減るなどの弊害が出る。このために免震と制震が考えられた。

 免震とは地震の揺れを小さくすることだ。地震の揺れを3分の1から5分の1に低減できる。ただし免震は横揺れの地震には大きな効果を発揮するが、縦揺れの地震には効果を発揮しない。

 いろいろな方法があるが、建物の下にゴムやダンパーを挟む方式が多い。上にある建物は何十年ももつから、耐久性が問題になることがある。ゴム部分の取り換えには既存の建物を持ち上げるなど多大な費用がかかる。

 一方、制震は地震の揺れを吸収するもので、高層ビルやタワーマンションなどの高い建物は建設コストが免震と比べると安いという取り柄がある。

 上階ほど揺れが大きくなるが、制震構造を採用することで、上階での揺れの増幅を小さくできる。耐震に比べると上階ほど揺れが抑えられるが、地表面より小さくなることはない。

 建物の上部に、巨大なピストンやシリンダーを置いて地震時の揺れを抑える仕組みが多い。地震の揺れをこれらの仕組みで吸収するものだ。

 巨大なピストンやシリンダーの力は相当なもので、今回の仙台のように、ビル全体が音を上げて揺れることもある。

 しかし、制震には大きな問題がある。

 建築基準法をクリアすれば、制震は万全だと考えられてきたが、じつは建築基準法は変わるものだ。大地震のたびに強化されてきている。

 1920年に建築基準法が初めて導入されて以来、耐震基準の想定を超える大地震がたびたび発生し、その揺れに耐えられる強化されてきた。新たな基準が設定されて来たからだ。近年も2016年に起きた熊本地震で、震度7の地震が2度発生し、多くの建物が倒壊した。建築基準法を強くすべきかどうかの議論が行われている。

 その意味では制震は常に「遅れて」くる運命にある。

 建築基準法できめられているのは当時の最低限の基準なのだ。

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