島村英紀『夕刊フジ』 2022年9月30日(金曜)。4面。コラムその463「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

台湾で地震が2回 日本で起きる地震の「きょうだい」 

「南海トラフ」と同じような地震が起きる

『夕刊フジ』公式ホームページの題は「日本で起きる地震の「きょうだい」台湾で9月に2回発生 日本で恐れられている「南海トラフ」と同じような地震が」


 台湾南東・台東県で9月17日夜から18日午後にかけて最大震度6強の大きな地震が2回発生した。

 台湾の中央気象局(気象庁)によるとマグニチュード(M)は6.9と6.4。地下7キロを震源にして起きた。2回目の地震が本震だという。

 同県や隣接した花蓮県などで、鉄道の橋が落ち、停車中の列車が大きく傾き、駅舎が倒壊した。道路も損壊し、人や自動車が転落したと見られ、救助活動が行われている。

 このほか、中層階のビルが倒壊する被害が出ていて、当局が捜索や救出活動を続けている。最初の報道では1人が死亡、79人の負傷者が確認された。

 台湾に地震は多い。台湾中部では1999年の集集地震(M7.3)で死者行方不明者2500人を超える犠牲者を生んだ。

 2018年にも大地震が起きた。台湾東部の花蓮市では4棟の十数階建ての高層ビルが大きく傾いた。死者17名、負傷者は280名を超えた。

 このほか2016年に台湾南部でM6.4の地震で100人以上が死亡している。いずれも浅い地震だ。

 じつは、台湾で起きている地震は、日本で起きる地震のきょうだいである。日本と同じフィリピン海プレートがユーラシアプレートに潜り込むことによってひずみが溜まっていき、やがて起きる海溝型地震だ。

 その意味では、日本で発生が恐れられている南海トラフ地震と同じような地震が台湾でも起きているのである。

 台湾で使われている震度階は日本と同じものだ。これは戦前の植民地時代に日本式のものを導入したからだ。

 台湾中部では1999年の集集地震で死者行方不明者が多数に上るなど大きな被害が出た。この地震のあと、それまでは震度6までしかなかった震度階に7を足した。

 日本は大被害を生んだ福井地震後の1949年に震度7を加えた。しかし実際に適用されたのは1995 年の阪神淡路大震災である。以後、熊本地震(2016年)や北海道胆振(いぶり)東部地震(2018年)などで震度7を記録している。

 9月の台湾の地震は震度6強だった。鉄道や道路の被害が目立ったが、そのほかに中層階のビルが倒壊して人が閉じこめられた。

 集集地震のあと、つまりこの20年ほどは台湾では建築基準が強化された。だが、今回倒れたマンションはその強化の前に作られたものだった。

 1999年の集集地震のあと、台湾では耐震基準を引き上げた。しかし、それ以前に建てられたビルは地震に弱いままだ。その後の地震で倒壊してしまったビルはいずれも耐震基準の引き上げ前に建てられたものだった。

 しかも、台湾にも日本にも、ビル建築時の「手抜き」がある。地震で壊れて、はじめてわかる。

 大地震が起きてから建築基準法が強化されたのは日本も台湾と同じである。日本は1995年の阪神淡路大震災で耐震基準を強化した。

 だが、それ以前の建物が多く残っていることは台湾と同じだ。手抜きもある。阪神淡路大震災でビルが多数倒れたのはひとつの例だ。

 日本にとって台湾の地震はひとごとではない。

この記事
  このシリーズの一覧


島村英紀・科学論文以外の発表著作リストに戻る
島村英紀が書いた「地球と生き物の不思議な関係」へ
島村英紀が書いた「日本と日本以外」
島村英紀が書いた「もののあわれ」
本文目次に戻る
テーマ別エッセイ索引へ
「硬・軟」別エッセイ索引へ