島村英紀『夕刊フジ』 2022年7月29日(金曜)。4面。コラムその455「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

火山のなかった場所で突然噴火するのは珍しくない

『夕刊フジ』公式ホームページの題は「火山のなかった場所で突然噴火するのは珍しくない 能登半島の不気味な群発地震は地下のマグマが原因」


  石川・能登半島から海にかけて、不気味な地震が続いている。

  昨年以来頻発していて、能登半島の先端にある珠洲市では6月に震度6弱を記録した。

 この群発地震は、いまのところ規模は小さいが、1965年夏から続いた長野・松代(まつしろ)で起きた群発地震と似ている。松代の地震は日に日に増え続け、秋には有感地震が日に100回を超えた。1966年に入っても地震の数は増え続け、5月には有感地震は1日約700回にもなった。地震計だけが感じる地震まで数えれば1日に7000回以上。平均5秒に1回というすさまじいものになった。地面はほとんど揺れ続けていたのだ。

 地震の回数が増えるにつれて大きい地震も混じった。5月には震度4の地震が37回、震度5も8回あった。夜も眠れない。群発地震から大地震に至った例もあるから、人々の恐れは頂点に達した。

 この群発地震が終わったのは1年半もあとだった。

 地下で何が起きたのか分かったのは、その後、研究が進んでからだった。この群発地震は、活火山のない場所に地下からマグマが上がって来て起こしたものだった。そしてマグマは途中で冷えて固まってくれた。

 地震のほかに奇妙なことがあった。1966年春から途方もなく大量の水が震源の近くの皆神(みなかみ)山から湧き出してきたのだ。毎分2トン近くである。家庭用の風呂を6秒でいっぱいにするほどの勢いだ。大量に出てきた水もマグマが地下深くから運んできたものに違いない。

 北海道・函館郊外の湯の川温泉沖の津軽海峡でも1978年から群発地震が起きた。一度終わったかに見えた群発地震がぶり返して、終止まで4年もかかった。震源は沖なのに函館で38回もの有感地震を感じた。

 これも上がってきたマグマが起こしたもので、マグマは途中で止まったと考えられている。

 火山がないところだから、と安心してはいけない。日本では、どこにマグマが上がってきて噴火するかわからない。東日本火山帯と西日本火山帯が日本列島を貫いている日本では、どこにマグマが上がってきても不思議ではないのだ。

 もちろんマグマが地表まで上がってくれば噴火になる。

 日本でも、いままで火山がなかったところで、いきなり噴火した例がある。宮城県の安達火山、秋田県の一ノ目潟(いちのめがた)、山形県の肘折火山、北海道函館沖の銭亀火山などだ。

 たとえば安達火山は一度だけ噴火した火山で、噴出した軽石は、仙台市付近に1メートルほど堆積している。この噴火は7〜8万年前に起きた。

 また一ノ目潟は直径約600メートルの丸い穴だ。噴火の後の爆裂火口に地下水がたまって作られた火口湖で、国の天然記念物になっている。8万〜11万年前に一度だけ噴火した。

 世界的にも、火山があると思われていなかった場所で噴火が始まるのは珍しいことではない。

 さて能登半島に火山が生まれるのか、地下でマグマが固まってくれるのか、一般の人も研究者も固唾をのんで見守っているのである。

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