島村英紀『夕刊フジ』 2022年7月8日(金曜)。4面。コラムその452「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

地球の内核はときに逆に回る

『夕刊フジ』公式ホームページの題も同じ

 オゾンホール、地球温暖化…地球に何かがあると、人類のせいかも、と心配する悲しい習性が身についてしまった。

 幸いにも、今度は地球の内核のせいであることが分かった。まさか今度は人類という放蕩息子のせいではあるまい。

 地球は内部に溶けた鉄の球を持っている。核といわれる。月よりも倍近く大きい。

 地球はひとつの大きな磁石だ。それも、ただの磁石ではなくて電磁石である。地球では、溶けた鉄の球の中で強い電気が流れていて電磁石になっている。この磁場で、地球上の人間をはじめ全生物は地磁気が作ってくれるバリアーの中にいて荷電粒子や放射線から防護してくれるから安全なのである。

 そのさらに内部に内核がある。温度は高いものの、高い圧力のせいで溶けた鉄の状態を保てずに再び固体になっている。5500℃から6000℃という太陽なみの途方もない温度の世界だ。直径は2440キロメートル。これを内核と呼び、地球の核は外核と内核に別れていることが分かった。

 外核や内核に人間が行ったことはない。ずべて地震計の記録から分かったことだ。

 ところで地球上の一日の長さは自転で決まる。地球の自転はいま24時間になっているが、長期的には遅くなっている。地球の自転にブレーキをかけている強大な力があるからだ。それは潮の干満による海水と海底の摩擦、太陽や月の引力で地球全体がゆがむ地球潮汐(ちょうせき)だ。

 これらの力のために自転は2億年ごとに約1時間ほど遅く、つまり200年間に約1000分の1秒(1ミリ秒)ずつ遅くなっていることになる。

 だが、地球の自転はミリ秒の単位で揺らいでいる。これは、地球の自転が遅くなっていくゆっくりした変化よりも100倍以上大きい。この原因はわからなかった。

 ところがこの6月に発表された論文で、内核の動きが地球の自転の揺らぎと関係していることが発見された。

 内核はその外側の溶けた鉄、つまり外核とも、また、地球全体とも違う動きをしていることが分かったのだ。

 内核は1969〜1971年に内核の回転が地球の回転に比べてゆっくりになっていた。しかも1971〜1974年には逆回転していた。これが地球の自転の変動と一致していたのである。

 なぜ、内核が別の動きをしているのかは分からない。核そのものの研究は進んでいないのだ。

 たとえば、なぜ、液体の球の中で流れる電流が電磁石を作っているのかというメカニズムは、まだナゾなのだ。

 じつは内核はいまでも成長を続けている。地球全体の温度が下がり、他方、地球内部の圧力は一定だから、外核であるまわりの溶けた鉄が、内核に固体としてくっついていくのだ。

 いずれ、地球が中心まで冷えてしまったときには、地球に熱源がなくなってプレートが生まれることも地球の中に潜り込むこともなくなり、それゆえ、地震や噴火は起きなくなる。

 しかし同時に、宇宙線が飛び込んできてあらゆる生物は死に絶え、地球は死の星になるだろう。

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