島村英紀『夕刊フジ』 2022年2月18日(金曜)。4面。コラムその433「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

人の手に余る地下火災 「廃炭鉱」「炭層」・・世界に1000カ所

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の題は「人の手に余る地下火災 「廃炭鉱」「炭層」…燃え続ける山が世界に1000カ所も」

 長年燃え続けている山が世界中にある。ほとんどは地下の石炭の層が燃えているものだ。

 日本にも北海道・夕張市に「神通坑」と呼ばれるところがあって、燃え続けている。元は夕張炭鉱の第5斜坑として大正期に開かれた。その後何回も火災は起きて、1925年に手がつけられなくなって閉鎖された。

 今に至るまで100年近くも地下の火災が続いている。雪深いところだが、地表の雪は消え植物も生えていない。地元でも忘れられつつあり、獣道(けものみち)をたどらないと行けなくなっている。

 この種のもので長いものは6000年間も燃えている。オーストラリア・ニューサウスウェールズ州のウィンジェンには、その名の通りバーニング・マウンテンと呼ばれる燃え続けている山がある。シドニーの北220キロメートルに位置する。

 世界最古の自然による炭層火災ゆえに、多くの人が訪れる観光名所となっている。

 先住民族であるアボリジニの言い伝えでは、神によって石に変えられた女性の涙がこのバーニング・マウンテンなのだと言われていたという。

 昔は火山活動だと思われたが、日本のように地下にマグマが生まれるところではない。本当のところは、山の地下30メートルほどで炭層がくすぶり続けているのだ。

 このほか、数千年ほど長くなくても、燃え続けている例はインド・ビハール州のジャリア地区にあるジャリア炭田だ。ここも100年以上も燃えている。ジャリア地区は450平方キロメートルの大きな炭田だが、70カ所で炭鉱の地下火災が燃え広がっている。

 インド当局は住民9万人の移住を提案した。しかし、インドはまだ貧しく、多くの住民は転居が難しい。移住したのは5千人にすぎない。そのうえ石炭の不法採掘や、石炭を拾い集めて生計を立てている人々も多い。

 このほか、炭田で有名なドイツ・ブレンネンダー・ベルクは、1688年に始まった炭層火災がいまだに燃え続けている。文豪ゲーテもここを訪れていて記念碑もある。ドイツの修学旅行や遠足などでもよく行く場所だ。

 また米国・ペンシルベニア州セントラリアでは1962年に発生した坑内火災が燃え続けている。

 ここは質の良い石炭が出るので有名で、一時は多くの人が住み着いた。

 だが 火事が燃え広がったために舗装道路は熱でひび割れ、火事から出る一酸化炭素ガスで人が住めなくなった。このためセントラリアでは1980年代からから町の移転が始まった。いまセントラリアはゴーストタウンだ。鎮火が試みられたが、地下での火が広がる速度が早いので消火は断念された。以後は燃えるにまかせている。

 英国でもスコットランド・イースト・エアシャーにある畑で突然地割れが生まれ、地面は赤く燃え上がって煙を上げている。これも廃炭鉱で、ここ3年半の間ずっと地下で燃え続けている。

 こうして世界中で約千もの地下の炭層が燃えていることになる。どれも手が付けられないで、燃えるにまかせている。

 地下火災というのは、消火しにくいうえ、次々に燃え広がるので、人の手に余る現象なのだ。
 
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