島村英紀『夕刊フジ』 2022年1月14日(金曜)。4面。コラムその428「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

不気味なカリフォルニア州北部地震
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「不気味なカリフォルニア州北部地震 米国では珍しい地震の州で11年ぶりの規模」

 不公平に起きる。日本ではどこに起きても不思議ではないが、たとえば米国では西海岸を除けば地震はほとんど起きない。カナダやインドでも地震は起きない。

 米国で子供向きの本を買えば「地震とはどういうものか」から始まっている。まさか日本ではこの種の解説はいるまい。

 私の所に滞在していた米国の科学者は、生まれて初めての地震を感じて「おばあさんへのいいお土産」ができたと喜んでいた。地震は震度2くらいで、知らない人はびっくりするが、日本人にとっては「ああ地震か」というほどの地震だった。

 その米国でカリフォルニア州北部沖で12月にマグニチュード(M)6.2の地震が起きた。南へ約430キロメートル離れたカリフォルニア・サンフランシスコでも揺れを感じた。この地震による津波は被害を起こすほどではなかった。

 幸い、建物のガラスが割れるなど軽微な被害は出たが負傷者の報告はなかった。地元のフンボルト郡は約1万平方キロの面積に住民約13万人余が住み、人口密度が低い地域だった。この規模の揺れは11年ぶりだった。

 この辺では24時間に40回以上の地震を感じて不安が高まっていた。

 そのフンボルト郡の港町から私たちが作った海底地震計の観測に出かけたことがある。

 カリフォルニア大学のボールト先生との共同研究の一環である。ボールト先生は米国の地球物理学のボスだった。

 カリフォルニアは米国では珍しい地震の州だ。サンアンドレアス断層という長さ1300キロメートルという長大な活断層が走っていて、たびたび大地震を起こしている。

 このため大がかりな観測網が敷かれ、地震予知研究も積極的に行われている。ボールト先生は、その旗頭の一人だ。

 しかし、地震を起こす活断層は北へ走って行って、その尻尾は、カリフォルニア州の北の沖で太平洋のなかに消えているのだ。

 断層の動きや成立ちを調べるためには、断層の端を調べることが重要だ。このため、私たちの海底地震計を持って海底地震観測に来てくれないかと始まった共同研究だった。研究ではこの断層の先端部近くには、地震活動が異常に高いところがあることが分かった。

 だが、この海底地震観測は大変だった。使った船が、小さくて、恐ろしく搖れた。

 この船は、もともと、50年も前に作られた米国東部にある五大湖の燈台補給船だったものを、カリフォルニアの小さな大学が払い下げてもらったものだ。海で使うために、波が入ってこないように側壁をかさ上げしてあった。職員としては船長と機関長の二人しかいない。ちっぽけな船だ。

 出港直後には、米国西海岸での世紀の海底地震観測だ、といってはしゃいでいたボールト先生は、まもなく船長のベッドで寝込んでしまい、ずっとベッドから起き上がれなかった。

 さて、カリフォルニアの北の沖で起きている群発地震は1906年のサンフランシスコ大地震のような地震に結びつくのだろうか。サンフランシスコ大地震は甚大な被害を生み、3000人が死亡し22万人が家を失った。

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