島村英紀『夕刊フジ』 2021年12月10日(金曜)。4面。コラムその424「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

インド亜大陸が元凶で起こる大地震

夕刊フジ』公式ホームページの題は「インド亜大陸が元凶で起こる大地震 中央アジアのタジキスタンや中国南部の四川省など」

 中央アジアのタジキスタンで7月にマグニチュード(M)5.9の地震があり、当局によると少なくとも5人が死亡した。このほか3人が重傷、53人が軽傷を負い、家屋が倒壊する被害も出た。地震で送電線が寸断されて広い範囲で停電になった。

 9月には中国南部の四川省でM5.4の地震があって、少なくとも3人が犠牲になった。この地震では酒造メーカーの倉庫で白酒の甕(かめ)が割れて約200トンが漏れ出した。白酒は米や麦、コーリャンなどを発酵させて作る中国の伝統的な蒸留酒だ。アルコール度数が高く、30〜50度が一般的だが、なかには70度を超えるものもある。引火すると爆発する恐れがあるために地元の消防が出動して放水した。

 日本で起きた地震ならいざ知らず、タジキスタンや中国で地震が起きて数人が亡くなったことでは日本の大きなニュースになることはない。

 だが、両国とも地震の常襲地帯なのだ。中国では2008年に四川大地震があって7万人もの犠牲者が出た。このほか16世紀の後半以降だけでも四川省で1万人を超える犠牲者を生んだ地震が8つもある。

 タジキスタンや中国南部には限らない。

 ネパールでも2015年に大地震があって5000人以上が犠牲になった。エベレストでは登山客ら18人が死亡し、エベレスト史上最悪の惨事になった。同国では1934年にもM8.1の地震が起きて1万人以上、1988年にもM6.6が起きて1500人近くが犠牲になるなど大被害を生んだ。

 またパキスタンでも、2009年のパキスタン地震では山岳地帯なので正確な犠牲者数は分かっていないが、少なくとも数百人以上が死んだ。2005年にもM7.6の大きな地震が襲って来て死者9万人以上という大きな被害を生じた。

 これらの地震の「元凶」はインド亜大陸だ。ユーラシア大陸のような大陸より小さいので亜大陸という。

 インド亜大陸は南極大陸の一部だった。ちなみに、オーストラリアもアフリカの一部も、南米の一部もひとつの大陸だった。

 プレート・テクトニクスでは解けないナゾで理由は分かっていないが、いまから2億年ほど前に、インド亜大陸はスリランカを伴って、インド洋をどんどん北上した。いまから5000万年前に赤道を越えて北半球に入り、1000万年前にユーラシアプレートに衝突した。

 その後も北上の運動は現在まで続いている。この運動のためにインド亜大陸の北側の国々で地震が起きる。

 またヒマラヤなど世界の屋根が連なっているし、日本の面積の6倍の広さの最高高度5000メートルにもなるチベット高原も、インド亜大陸の衝突でまくれ上がって出来たものだ。ヒマラヤはいまでも毎年1センチずつ高くなり続けている。

 日本は太平洋プレートとフィリピン海プレートが地震を起こす元凶だ。

 一方、これらの国々に起きる地震はインド亜大陸が元凶なのである。

 世界には、プレートが動いているために繰り返し地震が起きるところがいくつかあるのだ。

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