島村英紀『夕刊フジ』 2021年12月3日(金曜)。4面。コラムその423「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

地球外生命をどうやって見つけるか

『夕刊フジ』公式ホームページの題は「いまや問題は地球外生命が存在するか否かではなく、どうやって見つけるか」


 人類のような高等生物が地球だけにたまたま生まれたのだろうか.。

 昔は地球だけは特別だと思われていたが、現在では水があり、温度も適当ならば生物が生まれることが分かってきている。だとすれば、この広い宇宙には地球とは別に生命が生まれたとしても不思議ではない。時間がたてば進化して高等生物が生まれる可能性も否定できないのだ。

 かくて「地球外生命」の存在を否定できなくなった。いまの天文学のトピックは地球外生命だ。科学者の関心は、生命が生まれる環境がある惑星を宇宙空間で探すことになっている。

 これまでに存在が確認されている太陽系外惑星はおよそ4000個。その多くは2009年にNASA(米国航空宇宙局)が打ち上げたケプラー宇宙望遠鏡で発見された。その結果、宇宙には恒星よりも多くの惑星があり、少なくともその4分の1は生命が存在する可能性がある「ハビタブルゾーン」に位置する地球サイズの惑星だというのだ。

 天の川銀河には少なくとも1000億個の恒星があるから、最低でも250億個は生命を宿せる惑星があるとみられる。そのほか宇宙には天の川銀河のような銀河が何兆個もあるのだ。

 ケプラー宇宙望遠鏡のデータを受けて、研究の方向や手法が変わった。いまや問題は地球外生命が存在するか否かではなく、それをどうやって見つけるかだ。

 遠く離れた系外惑星の多くは「トランジット法」で検出される。惑星が公転している恒星の前を横切るとき、恒星の光をさえぎる。すると、地球からは恒星が陰って見える。これを手がかりに惑星の存在を推定する方法だ。この方法の弱点は恒星の前を横切らない惑星を発見することはできないことだ。

 だがもう1つ「ドップラー分光法」がある。恒星の位置の変化から惑星の存在を推測する。恒星とその惑星は、引力でお互いを引っ張っている。そのために惑星の位置に応じて、恒星は揺れる。それを検出する方法だ。

 利点は惑星の質量が分かることだ。質量を知れば密度を推測できる。密度が高ければ地球のような岩石惑星、軽ければ木星のようなガス惑星であることが分かる。

 最近さらに機器が進歩した。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が10月に打ち上げられた。これはハッブル宇宙望遠鏡よりはるかに能力が高い。100倍以上の性能を持ち、遠く130億光年以上離れた銀河を観測することができる。

 たとえば系外惑星の光から、大気の組成を分析することができる。もし生物がいなければ発生しないガスが見つかれば、その惑星に地球外生命がいる強力な証拠になる。

 ハッブル宇宙望遠鏡は地球を周回している。一方JWSTは太陽を回る。ハッブルが90分ごとに地球の影に出入りしていたのに、地球と月の陰で観測を邪魔されないというのは大きな利点だ。

 米国は本気だ。「能動的な地球外知的生命体探査」という計画が動き出しているほか、NASAの科学者が地球外生命体を発見した時に備えた心構えを作っている。

 さて、高等生物は近々見つかるのだろうか。

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