島村英紀『夕刊フジ』 2021年11月12日(金曜)。4面。コラムその420「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

"いつどの程度か"分からない磁気嵐

『夕刊フジ』公式ホームページの題は「“いつどの程度か”分からない磁気嵐 日本人の大部分は知らなかったが、先月に地球を襲った 」

 日本人の大部分は知らなかったが、先月30日から31日にかけて磁気嵐が地球を襲った。幸い大した悪影響はなく、ふだんは見られない場所でオーロラが見えたくらいですんだ。しかし電力会社や無線を使う航空会社など多くの会社は要員を配置した。

 これは太陽からフレアとして出るもので、太陽と地球の距離を1〜3日かかって着く。太陽フレアからは「コロナ質量放出」といわれるプラズマが噴出し、地球に達すると磁気嵐になる。

 今回は5段階評価で最大規模の「Xクラス」の爆発だった。ちょうど地球が正面に位置するタイミングで太陽フレアが出て地球に向かったので、今回は地球の磁気嵐も大きいのではないかと心配された。

 悪くすると国家レベルの甚大な被害を及ぼす恐れさえあった。送電網などに障害が出るほか、人工衛星やGPS(全地球測位システム)などの人工衛星や、航空や漁業に使っている無線が使えなくなる恐れがあった。

 観測史上最初で最大の磁気嵐は「キャリントン・イベント」である。これは1859年に起きたもので、アマチュア天文家だった英国のリチャード・キャリントンは、望遠鏡を覗いていて太陽に強烈に明るくて白い光を発見したことから始まった。世界中でオーロラが観測され、米国ではオーロラの明りで新聞を読むことができたという。しかし当時はもちろん人工衛星はなく、電力線もいまと違ってコンピュータ化されていなかったので影響は限られていた。いまキャリントン・イベントが起きたら大混乱になるだろう。

 どのくらいの磁気嵐が来るのかは、じつは解明されていない。肝心のいつかも分からない。太陽に黒点が現れている間なら太陽フレアはいつでも起こりうるのだが、大きな黒点が現れている時とは必ずしも一致しない。

 太陽フレアは太陽黒点から出る。分かっていることは、黒点周期の中でも大規模な太陽フレアが起きやすい時間枠があって、そのときに磁気嵐が頻発することだけだ。つまりいつ、どのくらいの規模の磁気嵐が来るのかは分からないのだ。分かっていることは太陽フレアの大半は太陽の「デルタ」と呼ばれる領域で発生していることだ。

 太陽の黒点は11年周期で増える。いまは2020年から始まったばかりで、その最中だ。黒点は太陽の表面としては表面温度が相対的に低いところだが、それでも温度は約4000度もある。

 いままでの例だと、最も激しい黒点の活動はサイクルが終わりに近づくとともに盛んになる。場所は太陽の赤道付近、つまりデルタエリアだ。

 今後は大規模な磁気嵐が起きて図り知れない影響が出る可能性がある。

 それでも、突然起きる地震よりはいいかもしれない。太陽フレアが太陽を出たことが観測されてから地球に着くまで多少の時間的な猶予はある。

 だが、対策は限られている。航空会社や電力会社などの関連産業に警告を発信して磁気嵐が起きるのを周知する。これによって航空機の運行を取りやめることや、送電網を遮断するといった対処をすることは可能かもしれない。

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