島村英紀『夕刊フジ』 2021年10月29日(金曜)。4面。コラムその418「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

阿蘇山「カルデラ噴火」の脅威 「大噴火」の400倍以上

『夕刊フジ』公式ホームページの題は「「大噴火」の400倍以上 阿蘇山「カルデラ噴火」の脅威 火砕流は海を越え、火山灰が北海道まで」

 阿蘇山が「また」噴火した。このところ、毎年のように噴火している。

 2019年4月から始まった噴火は翌2020年まで続いたし、2016年には噴煙が高度11000メートルまで上がった。今回は3500メートルだったから、噴火はそれほど大きいものではなかった。

 だが阿蘇山は日本でもっとも注目されている活火山だ。1928年から観測が続けられているし、1974年に噴火予知計画が始まったときにも最初に登録された。

 阿蘇山は6世紀以来の歴史が残っているだけでも多くの噴火が繰り返してきている。

 また阿蘇山は過去に「カルデラ噴火」を4回起こしたことで知られている。30万年前から9万年前までだ。

 カルデラ噴火とは過去、襲ってきた特別に大きな噴火のことで、東京ドーム約250杯分の火山噴出物が出た火山学の定義上の「大噴火」よりもさらに400倍以上も大きな噴火だ。

 「カルデラ」は元はポルトガル語で大きな鍋(なべ)のことだ。火山を中心にした大きな凹地のことで、地下から大量のマグマが出て地下に空洞が作られ、その空洞が陥没することによって地表が凹んでできたものなのである。

 阿蘇山カルデラは巨大なもので、東西18キロメートル、南北25キロメートル。カルデラ壁の高さは300〜700メートル。内部を2本の鉄道が通り、5万人の人々が暮らしているほど大きい。

 カルデラ噴火は日本では過去10万年間に12回起きた。平均すると数千年に一度ずつ繰り返されてきたことになる。

 しかし、過去にあったカルデラ噴火の前に、どんな前兆が、いつごろからあったかはまったく分かっていない。今後、数年前からなにかが分かるのか、どんな順序でどんな前兆があるのかは未知数なのである。

 いままでは北海道から九州南方まで起きたことがある。今後、どこに起きるかも分からない。

 ところで火砕流は火山ガスや火山灰や水蒸気でできているので軽く、一気に海を越えてしまう。温度は200℃を超えて、逃げることもできず、即死だ。20世紀にカリブ海の島で3万人が犠牲になったこともある。阿蘇山の9万年前のカルデラ噴火では、瀬戸内海を越えて中国地方を襲ったことが分かっている。火山灰も北海道まで日本中に降った。

 四国にある伊方原発の地裁判決でも、阿蘇山のカルデラ噴火の影響があると指摘されたのは、火砕流が海を越えてしまうからだ。

 カルデラ噴火が、これから永久に起きないことはあり得ない。数千年ごとにこれからも起き続けるに違いない。

 今回の噴火は幸いカルデラ噴火ではなかったが、火砕流は1600メートルほど流れた。気象庁が設定していた警戒範囲を超えた火砕流が発生したことになる。噴石も900メートルほど飛んだ。登山客や集落が火砕流や噴石に襲われなくてよかった。

 噴火予知はかくも難しい。噴火の元であるマグマ溜まりがどこに、どのくらいの規模であるのかが分からないからだ。古くから観測が始まった阿蘇でさえ分からない。

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