島村英紀『夕刊フジ』 2021年2月26日(金曜)。4面。コラムその386「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

東日本大震災の余震がなくなる?
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「東日本大震災の「余震」がなくなる? 地震活動が盛んな日本では、他の地震にまぎれて見えなくなる


 東日本大震災の余震が気象庁の発表から消えるかもしれない。

 2月13日の深夜に地震が起きた。震源は福島沖でマグニチュード(M)は7.3。大地震だ。福島県と宮城県で震度6強を記録した。震源が55キロメートルと深かったので、不幸中の幸いで津波はほとんど出なかった。

 この地震が2011年の東日本大震災(地震名は東北地方太平洋沖地震)の余震かどうかに疑念が持ち上がっている。

 この地震は本震の震源の外だった。しかし気象庁は、震源断層よりも大きい震源域付近の東西350キロメートル、南600キロメートルの範囲で発生したすべての地震を余震として発表してきた。

 気象庁は「余震の規模は小さく、回数は少なくなっていく」「安全になった」とのイメージを拡げた。このことは誤解を住民に与えて避難を遅らせることにもつながっていた。しかも気象庁が発表していたのは、たんに平均的な経験例にもとづいているだけで、余震に対する一般的な注意を呼びかけているだけだった。気象庁はこの是正に初めて取り組む。

 余震は、怪我をしたあとのうずきのようなものだ。本震で地震断層が動いたあと、本震の領域内で小さめの地震が起き続ける。それが余震なのだ。

 余震は時間とともにゆっくり減っていく。ただし数学的には原子核の崩壊のように指数関数で減っていくのではなく、本震直後の減り方は指数関数より速いのだが、後に長く尾をひく。M9という東日本大震災くらい大きな地震だと、余震は100年以上も続く。

 たとえば米国では余震が200年以上も続いている例もある。これはミズーリ州とケンタッキー州の州境で1811年から1812年にかけての3ヶ月弱の間に、M8を超える大地震が続けて3回起きた。その余震である。

 しかし日本ではふだんから地震活動が盛んなので、余震がたとえ続いていたとしても、他の地震にまぎれてしまう。米国では地震の活動レベルがごく低いからあとになって小さな地震がわずかに起きても余震に違いないと分かる。日本でも余震は続いているのだが、見えなくなってしまう。

 そもそも余震が他の地震と性質が違うわけではない。「オレが余震だよ」と言って起きてくれるわけではない。地震学的には余震を他の地震と区別することはできない。

 2月13日の福島沖の地震は余震ではなくて、2011年の地震で「留め金」が外れたために、隣接する地域で地震が起きたものに違いない。2011年の地震の影響下だが、直接の余震ではない。

 地震にはそれぞれ固有の「住みか」があって、その中で地震エネルギーを貯めている。隣との境は互いに押し合って、つまり留め金でとまっている。大地震が起きて隣との留め金が外れると、隣で地震が起きやすくなるのだ。

 その意味では隣接する北側や南側で地震が起きても不思議ではない。北側とは青森沖から北海道沖にかけて、南側とは茨城県の南部沖から房総沖にかけてだ。ただし地球の時間スケールなので人間のスケールではない。

 今度の地震を奇禍(きか)にして将来の地震に備える必要があろう。

 
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