島村英紀『夕刊フジ』 2020年12月18日(金曜)。4面。コラムその378「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

来週、木星と土星が800年ぶり大接近 天変地異が起きる予言「惑星直列」
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「木星と土星が800年ぶり大接近する「惑星直列」 天変地異が起きる予言も 」

 来週の21日月曜の夜から翌日にかけて、木星と土星が約800年ぶりに大接近する。2つの星の見かけ上の距離が満月の5分の1ほどにまで縮まる。望遠鏡で見ると2つの星が同じ視野に入るほどになる。

 晴れていれば世界中で観測できる。だが、最も長く見えるのは赤道付近で、北へ行くほど地平線に沈むまでの間に見える時間が短くなる。日本では西南の空に見えるが、夕方6時前に暗くなるので夜7時には地平線に消えてしまう短いショーだ。

 約800年前とは1226年3月4日のことだ。日本では鎌倉時代、世界ではチンギス・ハーン帝国の西征が始まったときだった。西洋では十字軍が活躍していた。


 木星と土星は太陽系の惑星ではもっとも大きい。ともに直径は地球の約11倍ある。それぞれ太陽のまわりを回っていて、木星は約12年、土星は約30年で太陽を1周している。地球から見たら約20年ごとに並ぶ。


 しかし、今回ほど近づくのは珍しい。西暦で紀元0年から3000年の間に今回のような大接近は7回だけだ。しかもそのうちの2回は太陽に近すぎて望遠鏡がなければ観測できない。だから、今度はめったにない機会だ。


 これら惑星が近づいて見える現象には「惑星直列」という名前がついている。これらの惑星が宇宙空間に直列に並んでいるという意味だ。予言者やSFなどの小説の世界では有名な言葉だが、じつは天文学の用語ではない。


 とても目立つ現象だから、この現象が起きるときには天変地異が起きるのではないかという予言が、しばしば行われてきた。地震、洪水、火山噴火、さらには人類滅亡といった凶事である。有名なものにノストラダムスの予言がある。


 しかし、「惑星直列」が起きても、太陽や月の引力の10万分の1よりも小さい。その引力では海は1センチメートルのわずか3万分の1しか上がらないのだ。


 ところで、太陽や月の引力が地震の引き金になるという学問上の学説はいくつかある。


 たとえば2011年に起きた東日本大震災(地震名は東北地方太平洋沖地震)の前に、大地震が近くなるにつれて、引力の影響が強いときに地震が集中したという。大地震を起こした南北500キロメートル、東西200キロメートルの地震断層の中で、大地震前の36年間に起きたマグニチュード(M)5以上の約500個の地震を分析したものだ。


 月や太陽の引力によって地表面が20〜30センチメートルほど上下している。地球潮汐(ちょうせき)という。その力はプレートのひずみと比べて1000分の1だが、大地震がいまにも起きそうなときには引き金を引くことはできるというのがこの説だ。ただ、反論も多く、定説にはなっていない。


 しかし「惑星直列」ではずっと小さく、たとえ大地震の引き金さえ引けない大きさなのだ。今回の「惑星直列」も地球に事件を起こすはずはないというのが地球物理学者の考えである。


 次回の木星と土星の大接近は20年後の2040年だが、今回のように接近するのは、さらに40年後の2080年になる。


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