島村英紀『夕刊フジ』 2020年9月25日(金曜)。4面。コラムその366「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

韓国「人造地震」の脅威
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「韓国「人造地震」の脅威 「地震がほとんどない国」だからこそすぐに判明」

 韓国からのニュースで「全土で今年9月までに607回の地震」とあった。今月の間違いではない。今年の初めからの地震回数だ。

 一方、日本では地震計が検知する地震は数万にものぼる。はるかに多い。有感地震(身体に感じる地震)だけで年に1500〜2000回もある。

 韓国の地震観測は韓国気象庁の地震火山局が担当している。韓国気象庁が持つ地震観測所は全国に264ヶ所、その他、韓国電力と原子力安全技術院などのもある。

 韓国は日本とちがって、プレート境界から、はるかに遠いために地震がほとんどない。プレート境界で起きる海溝型地震は起きず、直下型地震もごく少ない。かつては大地震が襲ったことがあるというが、300年以上も前の17〜18世紀のことだ。ユーラシアプレートの中でたまに起きる直下型地震にちがいない。

 韓国には地震がほとんどないのは羨ましい。このため、韓国のビルは耐震基準が日本よりも緩い。つまり安価に作れる。

 韓国で稼働している原子力発電所もそうだ。原発はいま24基あって電力の約3割を供給している。韓国の原発は日本の原発の3分の1の価格で作られているという。

 だが、地震が少ないゆえに、何かが起きたら、すぐわかる。その意味では韓国南東部で2017年11月に起きた地震は目立った。マグニチュード(M)は5.4。日本では珍しくはない大きさだが、韓国では近代的な地震計による観測が1978年に始まって以来、40余年で二番目の大地震だった。

 これは地熱開発にともなう人間活動が起こした地震「人造地震」だということが分かった。

 地震の震源は地熱発電の穴から600メートルしか離れていなかった。しかも震源の深さは発電施設の井戸の深さとほぼ一致していた。操業開始以前には観測されたことがなかったM2以上の地震がいくつも起きていた。

 発電は、地下深くの岩石に高圧の水でヒビを入れて、そこから出た蒸気でタービンをまわす方式だ。このために地下4キロの穴を2本堀った。一方に水を注入し、地熱で加熱し、発生した水蒸気を別の穴から取り出す。プレート境界から遠くても地熱はあるので、地熱発電は可能なのだ。

 この地熱発電所は2016年6月に試運転を開始し、2017年12月から商業運転に入る予定だった。だが、その直前に地震が起きてしまった。

 M5.4の地震は韓国有数の工業都市、浦項(ポハン)を襲い、家屋が倒壊するなどして92人が負傷し、被災者は1800人にのぼった。

 地震を受けて、韓国の産業通商資源省は地熱事業の中止を決定した。

 スイスでも、バーゼルで地熱発電所が稼働中の2006年に地震を起こした。地熱発電所はスイス政府の命を受けて、地震で建物の損壊などの被害を受けた地元住民に補償したことがある。

 そのときの地震のMは3.4。韓国の地震のエネルギーはスイスの地震よりも1000倍も大きく、地熱関連では世界最大の地震だった。

 スイスも韓国と同じく、ふだんの地震活動がごく低い国だから、この地震が人造地震であることがわかったのである。
 
この記事
このシリーズの一覧

島村英紀・科学論文以外の発表著作リストに戻る
島村英紀が書いた「地球と生き物の不思議な関係」へ
島村英紀が書いた「日本と日本以外」
島村英紀が書いた「もののあわれ」
本文目次に戻る
テーマ別エッセイ索引へ
「硬・軟」別エッセイ索引へ