島村英紀『夕刊フジ』 2020年4月10日(金曜)。4面。コラムその343「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

コロナ対策で地球の振動が急減
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「コロナ対策で地球の振動が急減!? 人間由来の雑音は地震観測の悩みの種

 地震計の感度は100メートル先を人が歩いても感じるほど高い。電車や汽車ならば、10キロ離れていても感じてしまう。この種の地震計が世界中に設置され、日夜、世界中の地震を観測している。

 だが、人間の社会活動に伴う振動が、地震観測の大いなる邪魔になっている。たとえば東京千代田区大手町にある気象庁は、交通量が多い道路に囲まれているうえに、地下鉄が地下に5本も走っている。地震計を皇居の脇にある近くの北の丸公園に移したが、それでも周囲の振動は高い。

 人間が密集しているところの地震観測は、どこも同じようなものだ。


 ところが、この新型コロナウィルス騒ぎで、地震観測のときの邪魔が減った。ベルギーの首都ブリュッセルの地震観測はベルギーが休校や休業などの対策が始まった3月半ばから、雑音が約30〜50%も減った。いつもは記録されない小さな地震を観測できるようになったのである。


 ベルギーだけではない。英国でも英政府が封鎖を発表して以降、ロンドン西部で観測された雑音が減ったし、米国ロサンゼルス市でも地震観測の雑音が激減した。


 新型コロナウィルスの感染者は世界で100万人を超えている。また世界90以上の国と地域で、自宅待機命令や夜間外出禁止令、隔離といった外出制限が課されている。外出禁止令が出されているのは世界の人口の半分、39億人にも達している。この「効果」が現れているのだろう。


 もともと、人間由来の雑音は地震観測の悩みの種だ。首都圏など都市圏での地震観測はあきらめざるを得なくなっている。


 地下構造を研究するための人工地震が日本各地で行われているが、その時間はせめて邪魔の少ないときを狙う。午前2時。人々が寝静まったときを選んで、眠い眼をこすりこすり、深夜に行われている。


 首都圏の地下にあって大地震を起こす可能性があるフィリピン海プレートも、こうして研究されたものだ。フィリピン海プレートが以前考えられていたよりも浅くて首都圏に近いということが分かったのは、こうした人工地震のおかげである。この結果、フィリピン海プレートが10キロほど浅いことが分かり、このプレートが起こす地震で首都圏の揺れがより大きくなることが分かった。


 外出禁止令はますます多くの国に出されるようになるだろう。フィリピンでは軍や警察に射殺されるそうだ。


 ところで、この新型コロナウィルスが流行っている最中に、もっとも怖いものが、大地震や噴火に襲われたときに開設される避難所での生活だろう。


 狭くて、人々が密集していて、換気も悪いという避難所は、新型コロナウィルスが拡大する要素が揃っている。


 そのときに大地震や噴火に襲われるならば、新しい大きな悲劇が生まれるかもしれないのだ。


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