島村英紀『夕刊フジ』 2020年2月7日(金曜)。4面。コラムその334「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

新型肺炎報道に隠れたトルコ大地震のナゾ
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「「新型肺炎」報道に隠れたトルコ大地震のナゾ…地震が東から西へ移動する「新シリーズ」の始まり?

 先月末にトルコ東部で大地震があった。マグニチュード(M)6.8。コロナウィルスのニュースの陰に隠れてしまったが、先月27日までに41人の死亡が確認され、負傷者は1600人以上に達した。

 トルコは日本と同じく世界有数の地震国である。しかも、トルコを東西に走る「北アナトリア断層」に沿って大地震が移動していくので有名だ。
北アナトリア断層は長さが1000キロあまりもある大断層だ。この断層に沿って、東から西へ、順々に大地震が起きていったのである。

 最初は、1939年にこの断層の東の端に近いところでM7.8の地震が起きた。阪神・淡路大震災(1995年)よりも地震エネルギーが6倍も大きな直下型の地震だったから、もちろん、大変な被害を生んだ。その後、1942、1943、1944年と5年の間に次々と西へ場所を移しながら、M7クラスの大地震が続いた。

 この5年でいったん収まったかに見えたのだが、その後1950年代になって、1944年の地震のすぐ西方で1957年、さらにそのすぐ西で1967年とM7クラスの地震が起きた。つまり1967年までの約30年間の間にM7から8の大地震が西に移動しながら次々に起きていったのだ。

 そして1999年には断層の北西部イズミットでM7.6の大地震があり、1万7000人以上が死亡した。

 1000キロといえば東京鹿児島間より長い。この間を60年ほどかかって「移動」したことになる。地球物理学的に考えると、年間10キロほどの移動というのは、地下で何かが動くとしたらありえない速さだ。プレートが動く年間数センチよりもずっと速い。それゆえ、何がこの地震の移動をもたらしたのか、大きなナゾになっている。

 じつは断層の先には、マルマラ海という細長い海がある。トルコ最大の都市、イスタンブールが面している海だ。この海の先にはエーゲ海から地中海までつながっている。

 この海底まで断層が伸びているのかどうか、断層の性質はどのようなものかを研究するために、私たちの海底地震計をマルマラ海に展開したことがある。2001年のことだ。フランス・パリ大学とトルコ・イスタンブール工科大学との共同研究だった。私たち日本人が海底地震計を、そしてトルコとフランスの科学者は陸上に地震計を設置した。

 研究結果はマルマラ海の海底には大断層の「延長」はあるが、幸い、近年大きな地震を起こさないだろうということだった。

 ところで先月の地震は、この断層の東端だった。震源はトルコ東部のエラズー県の南方約40キロ、深さは10キロだった。この地震で70棟以上の建物が完全に崩壊し、900棟以上が被害を受けた。

 じつは2010年にこの付近で起きた地震では約50人の犠牲者が出ている。

 地震が東から西へ移動する新しいシリーズが、また始まったのだろうか。

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