島村英紀『夕刊フジ』 2019年9月6日(金曜)。4面。コラムその313「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

グレートバリアリーフを「軽石の巨大島」が救う?
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「グレートバリアリーフを「軽石の巨大島」が救う!? サンゴ、藻、貝類…新しい生態系が生まれる可能性も」


 膨大な量の軽石が、オーストラリアの東海岸へ向かって漂流を続けている。その面積は60平方キロ。東京23区の中でも最大の大田区や二番目の世田谷区の面積に相当する。それぞれ70〜90万人の人が住んでいる大きな区だ。

 この軽石の「島」は海面上を漂っている。かつて別の「島」が発見されて、「島」として命名されて権威あるタイムズ世界地図帳やグーグルの地図に載ったこともある。実在の島だと思われたのである。

 今回の「島」はこの夏に発見されたのだが、数日前には南太平洋の島国トンガの近くで海底火山の噴火が起きていた。海底火山から大量の軽石が出て海面上に漂う巨大な「島」になったのだ。

 火山学では「パーミス・ラフト」というもので、「パーミス」とは火山から出る軽石、「ラフト」とは筏(いかだ)やゴムボートを意味する。

 この「島」は、オーストラリアの東海岸へ向かって漂流を続けている。

 東海岸には、グレートバリアリーフがあり、ここには4,000近いサンゴ礁がある。

 だが、気候変動によって海水温が上昇したばかりではなくて、二酸化炭素を吸収した海は、より酸性化した。このためにサンゴは白化現象を起こし、共生関係にあった藻を失っている。いまやグレートバリアリーフの3分の2もが激しい白化現象によって荒廃している。

 この膨大な軽石が流れつくと、サンゴ礁を再生させる助けになるかもしれないという期待がある。

 それは、軽石が何ヶ月も漂流している間に、サンゴの幼生をはじめ、藻やフジツボ、カニ、貝類、蠕虫(ぜんちゅう)などあらゆる種類の生物が住み着いて、軽石が海洋生物の巣の役割を果たしているからだ。

 この軽石がオーストラリア東岸に到達すれば、軽石に住み着いた多様な海洋生物が作る新しい生態系が生まれる可能性がある。

 さて、この軽石が6〜10カ月後にオーストラリアへの到達後、何が起きるのか、科学者は固唾を呑んで見守っているのだ。

 ところで今回はトンガの近くの海底火山の活動から出た軽石だが、世界中でプレートを生み出しているのは「海嶺(かいれい)」という火山脈だ。海嶺は海底にある活火山脈である。

 海嶺の全体の長さは地球ひとまわり分の40,000キロよりもずっと長い。

 日本の場合、東太平洋で生まれた太平洋プレートや、西太平洋で生まれたフィリピン海プレートが日本列島に衝突してきて地震を起こしている。2011年に起きた東日本大震災(地震名は東北地方太平洋沖地震)もそうだし、いずれは起きるに違いない南海トラフ地震や、次の関東地震も、これらのプレートが起こす。

 つまり海底の火山は、大量の軽石を出すだけではなくて、マグマを大量に出して新しいプレートを次々に作っているのだ。

 海嶺の全体の長さは75,000キロにもなる。北米のロッキー山脈や南米のアンデス山脈よりもけた違いに長い。世界でもっとも活動が盛んで長い大火山脈なのである。

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