島村英紀『夕刊フジ』 2019年5月31日(金曜)。4面。コラムその299「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

オゾン層破壊と中国
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「人間の作り出した「フロン」がオゾン層を破壊する… 中国東北部から著しい放出」

 ようやく止まりかけていたオゾンホールの拡大が、思ったよりも遅くなりそうだ。中国のせいである可能性が強い。

 オゾンは、もともと総量が空気の0.03%しかない気体だ。地球上空で薄いベールのように地球を覆っている。このオゾン層が太陽から来る紫外線をさえぎってDNAを壊さないおかげで、人間やすべての生物が暮らせているのだ。

 地球上に生命が生まれたのは35億年前だが、多くの期間は海中でしか暮らせなかった。海中ならば紫外線が入り込めないからだ。オゾンがゆっくり増えてきて、ようやく生物が陸上に住めるようになったのは4億年前にすぎなかった。

 南極上空にあるオゾンに穴があいていて「オゾンホール」が出来ているのが発見されたのは1980年代になってからだった。日本と英国の南極観測隊が別々に見つけた。それ以来オゾンホールは拡大し続けて、いまや南極大陸の面積の2倍にもなっている。穴があかないまでも、全地球でオゾンが減少している。

 じつは、このオゾンの減少は人間のせいだ。「フロン」を大量に使い、そのフロンが上空のオゾンを壊してしまったのだ。

 もともと地球にはなかった「フロン」を発明したのは人類だ。冷蔵庫やカーエアコンの冷媒や、ヘヤースプレーなどのスプレーに広く使われたほか、発泡剤として建材やクッションにも使われた。使われたあとフロンが上空に上がっていってオゾンを壊していた。

 このことが分かって世界中が慌てた。1987年に「モントリオール議定書」を作って、オゾン層を破壊する恐れのある化学物質を禁止した。

 オゾンが減ることで、人間だけではない。陸上のあらゆる生物のDNAが壊れてしまって危険に瀕する可能性がある。

 この議定書は各国を縛る。その代わりとして代替ガスが使われる。それゆえ、オゾンホールの拡大は2060年代までに止まる見通しだった。

 ところが昨年くらいから、どうもへんなのだ。オゾンの減少が思ったよりも多くて、どこかで、大量のフロンを作って使っているに違いない、という疑いが強まっていた。

 世界中に環境の観測点がある。そのうち沖縄・波照間(はてるま)島と韓国・済州島の観測点での記録の解析から、中国の東北部でフロンの放出が著しいことがわかった。ちなみに波照間島は日本最南端の有人島である。

 フロンは代替ガスよりも安価だし、冷媒や発泡剤に使ったときの能力もずっと高い。このため、隠れて使っている向きがあるに違いない。

 このフロンがどこで製造されたのか、そしてどのように使われたのかは分からない。中国では表向きはフロン禁止だが、中国国内のほかの地域で製造されたり、他の国で製造されたものが中国に運び込まれ、断熱材をつくる工場などで放出された可能性もないわけではない。

 かつて地球になかったものが発明されたのはフロンだけではない。便利さや安価と引き替えに地球に危機をもたらしているものは多い。

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