島村英紀『夕刊フジ』 2019年4月19日(金曜)。4面。コラムその294「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

台湾も追随「10段階の震度階」
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「世界の多くは12段階…日本と台湾だけが「10段階の震度階」 国によって違う震度のスケール」

 地震のマグニチュード(M)と震度は、ときどき間違われる。

 Mは世界共通の数字で「地震そのものの大きさ」だ。ひとつの地震でひとつの数値しかない。世界最大の地震は1960年のチリ地震で9.5、2011年の東日本大震災(地震名は東北地方太平洋沖地震)で9.0だった。小さいものは0以下のものもある。感度の高い地震計で、震源に近いとマイナス1や2でも捉えられる。

 一方、震度は「その場所での揺れ方」だ。震源地やその周辺で、どんな被害が出ているかの見積もりに大切なものだ。

 同じ地震でも、場所が違えば違う数値になる。2018年の北海道地震のように大地震で震源に近いところでは震度7になるし、遠くに行くにつれて数値は下がり震度0になる。震度0とは、人間には感じないが地震計にだけは感じる揺れだ。

 じつは、震度のスケールは国によって違う。日本は7から0までだ。1996年から6と5の強弱が別になったから、全部で10段階になる。「気象庁震度階」である。

 だが、世界的には0はなく1からの12段階になっている国が多い。

 震度には何種類もある。改正メルカリ震度階」「メドヴェーデフ・シュポンホイアー・カルニク震度階」「地震烈度」「ロッシ・フォレル震度階」「ヨーロッパ震度階」などがある。

 たとえばヨーロッパ震度階はヨーロッパ各国で使われている12段階のものだし、メドヴェーデフ・シュポンホイアー・カルニク震度階はやはり12段階で、ロシアなどのCIS諸国やイスラエル、インドなどで使われている。改正メルカリ震度階はやはり12段階だが、米国や韓国で使われている。また地震烈度は中国で使われている12段階の震度階だ。同じ12段階でも、微妙に違うのである。

 歴史的に見れば、もともとは日本の植民地だった台湾と朝鮮に日本の震度階を「押しつけ」た。このため、台湾と韓国は戦後も長らく、日本と同じ震度階を使っていた。

 だが韓国は「日本流」を嫌ったのか、2001年に日本式の震度階をやめて改正メルカリ震度階に変えた。

 他方、台湾は戦後もずっと日本流の震度階を使っていた。日本では1948年の福井地震の惨状を見て震度7を付け足して、1995年の阪神淡路大震災(地震名は兵庫県南部地震)で初めて震度7が適用されたが、台湾ではその前まで、つまり震度6までの7段階が使われてきたのである。

 ところが、1999年には台湾中部でM7.7の「集集大地震」(921大地震)が発生して、2400人以上が死亡した。南投県・集集鎮付近では日本の震度では7に相当する揺れに襲われた。台湾では20世紀最大の地震だった。この地震以後、台湾でも震度7を付け足して8段階にした。

 その後も台湾では大地震が相次ぎ、高性能の計測震度計を導入して、今年後半から日本を参考に10段階に細分化することを決めた。

 つまり、世界の多くの国は12段階なのに、台湾と日本だけが孤立して同じ10段階の震度階を使うことになるのである。

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