島村英紀『夕刊フジ』 2018年12月7日(金曜)。4面。コラムその277「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

アラスカでM7 カリフォルニアにも津波の恐怖
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「「地震州」アラスカでM7 カリフォルニアに津波の恐怖 」

 11月30日の朝(日本時間では12月1日の未明)、米国アラスカ州でマグニチュード(M)7.0の強い地震があった。震源がアンカレッジ市内北部だったことで市内では甚大なインフラ被害が発生し、多数の住宅や建物が損傷した。一部地域では停電も発生した。アンカレッジ市はアラスカ州の最大都市だ。
 
この近くにはアラスカを南北に縦断する世界最長級の原油パイプライン「トランスアラスカパイプライン」が通っている。パイプラインは予防措置として送油を停止したが、損傷がないことが確認され、送油を再開した。

 米国全体では地震が起きるところはごく限られている。数少ない例外、アラスカでは陸地が載った北米プレートに太平洋プレートが衝突している。東北日本と同じ構図で、よく地震が起きる。げんに1964年にはアンカレッジの東方でM9.2の「アラスカ地震」が起きて、世界最大の液状化を生むなど、大きな被害を生んだ。当時は1974年に工事が始まり1977年に完成した「トランスアラスカパイプライン」が作られる前だった。

 もうひとつ、米国で地震がよく起きるのが西海岸のカリフォルニア州だ。

 ここには世界でも最長クラスの長さ1300キロもあるサンアンドレアス断層という活断層があり、1906年のサンフランシスコ地震など多くの地震を起こしてきている。サンフランシスコ地震はM7.8。700人以上が死亡し、地震による火災で中心部の商業地区が崩壊した。米国の主要都市で起きた最も被害の大きい自然災害だった。

 サンアンドレアス断層で想定されているM8.5以上の巨大地震を「ビッグワン」と称して長年、警戒してきている。

 だが、カリフォルニア州では、2011年の東日本大震災で日本での津波の大被害が報じられて以後、津波の被害がにわかにクローズアップされるようになった。

 カリフォルニア州での一番の心配は、アラスカで大地震が起きて、その地震からの津波が襲って来ることになった。

 2013年に米国地質調査所(USGS)が出した被害予想では、アラスカでM9の地震が起きると甚大な経済的被害を受け、75万人が避難を余儀なくされるという。

 カリフォルニア州沿岸部の4分の3は幸いなことに断崖の上であるため、津波の被害を直接受けずに済むだろうと報告書は述べている。一方、残る4分の1は津波の危険にさらされる。これらはカリフォルニア州の資産のうち、最も経済的価値が高い資産ゆえ、被害も甚大だと言う。また、カリフォルニア州に原子力発電所は二ヶ所あり、どちらも沿岸部にある。

 今回のアラスカでの地震がM9よりも小さかったことを聞いて、カリフォルニアでは胸をなで下ろしたに違いない。

 しかし、今年はじめにも「地震州」アラスカでM7.9の地震も起きている。いつかは、アラスカで大地震が起きて大きな津波がカリフォルニア州を襲う可能性がけして低くはないのである。

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