島村英紀『夕刊フジ』 2018年9月21日(金曜)。4面。コラムその266「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

50キロ以上離れた札幌・清田区でも液状化
「夕刊フジ」公式ホームページの題は「北海道地震、震源から50キロ以上離れた札幌・清田区でも液状化」

 北海道地震(北海道胆振東部地震)で震源から50キロ以上も離れた札幌市でも大きな被害があった。

 札幌の南東部にある清田区で舗装道路が壊れて陥没したほか、住宅が傾いて住めなくなったのだ。液状化である。地元のテレビ局の女子アナが腰まで入って抜けなくなった。救出されるのに6時間半もかかった。

 札幌市の人口は200万近い。北海道内で唯一、急激に膨張したところだ。

 清田でも、昔の川や低地を埋め立てて宅地が造られ、新興住宅が立ち並んだ。「谷埋め盛り土」という工法だった。沢が流れる谷地を山から切り出した土で埋める手法だ。そこが集中的にやられたのだ。地下に埋められた水道管が破損したことも被害を大きくした。

 しかも、埋め立てに使われた土は火山灰だった。震源地近くで崩れたのと同じ、支笏(しこつ)カルデラから数万年前に出た火山灰だ。支笏湖から札幌市の南部まで、広く分布している。

 1978年の宮城県沖地震(マグニチュード7.4)は初めての都市型災害を起こしたので有名だ。

 マンションで玄関の鉄のドアが開かなくなったほか、ガスや水がストップした都市生活がどんなに大変なものか、人々は思い知らされた。またブロック塀や門柱の倒壊による死者が死者の半分以上もあった。どれも新顔の地震被害だった。

 それだけではなかった。地震で全壊した家1200戸の99%までが造成された土地に建っていた家だったのだ。一般に古い家ほど地震に弱いが、新しい家が建っていたこの新開地に被害が集中した。

 つまり、昔の人が住むのを避けていた場所に人々が住むようになったのだ。昔の人が避けていた土地は水田や沼地だった。

 今回の地震でも、札幌市内の新興住宅地でこの悲劇が繰り返された。ほんの数百メートル離れた場所でも、もと沢の上でなければ、ほとんど被害はなかった。

 都市への人口集中は札幌には限らない。日本中、いや世界全体の傾向である。このため、都会が膨張して、いままで人が住んでいなかったところに新興住宅が建ち並ぶようになっている。

 2011年の東日本大震災のときも、震源からはるかに離れた首都圏でも液状化の被害が目立った。千葉県浦安の新興住宅地もそうだった。ここはちょっと前まで海で、潮干狩りを楽しんだところだった。また茨城県や千葉県のあちこちで起きた液状化は、利根川が氾濫した低地を埋めて宅地にしたところに起きた。

 近頃の新しい建物は地震に丈夫に出来ている。しかし、地盤や土台が液状化で傾いてしまえば、住宅としては無傷でも、住めなくなってしまう。

 もう一度住むためには、建て直さなければならない。だが地盤を含めて直すには多大の金がかかってしまう。

 庶民としては、その土地の昔を知るべきであろう。近年の宅地開発で、低地や谷や沢を表す昔の地名を消してしまって、「緑が丘」だ「美しが丘」だという新しい地名に惑わされてはいけないのだ。

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