島村英紀『夕刊フジ』 2018年7月27日(金曜)。4面。コラムその258「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

西日本豪雨が引き起こした水蒸気爆発 すさまじい威力・・御嶽山噴火と同じ
「夕刊フジ」の公式ホームページの題も「西日本豪雨が引き起こした水蒸気爆発 すさまじい威力…御嶽山噴火と同じ」

 西日本が豪雨災害に襲われた。目を覆う災害だが、この豪雨は地球温暖化にともなって「気象が凶暴化」してきたひとつの現れだ。4年前の広島市安佐南区を中心とした豪雨災害といい、これから気象災害がもっと増える可能性がある。

 気象の凶暴化ではそのほか、強い台風が上陸してきたり、竜巻がより強くなったりする。

 ところで西日本豪雨で、水蒸気爆発が起きた。火山ではよくある水蒸気爆発だが、平地の工場で起きたことは珍しい。

 岡山・総社市にある金属加工会社で7月6日に水蒸気爆発が起きた。すさまじい爆発で工場はメチャメチャになり、民家など3棟が全焼したほか、広範囲の民家の窓ガラスが割れたり壁が壊れた。

 従業員が避難したあとだったので工場での人的災害はなかったのが不幸中の幸いだったが、近隣に住む住民約40人が重軽傷を負った。

 この工場ではアルミを溶かしてリサイクルしていた。そこへ近くの高梁(たかはし)川の支流が氾濫して水が流れ込んできた。溶けた高温のアルミと接触して水蒸気爆発を起こしたのだ。

 溶けたアルミだけではなく、水が高温の物体に触れるだけで水蒸気爆発が起きる。

 「水蒸気」爆発というと、まるでヤカンから出る湯気のように威力のないものに聞こえる。だが、そうではない。

 液体の水は1グラムで1立方センチの体積を占めるが、これが100℃になると気体になって約1700立方センチの体積にも膨張する。もっと高温の物があると4000立方センチ以上と、さらに体積が増える。数千倍の体積になるのだ。

 このため、工場など閉じた空間では大変な圧力になって、まわりにあるものを吹き飛ばしてしまう。

 アルミの融点は660℃ほどだ。火山ではもっと高く、マグマの温度は1000℃を超える。この高温のため、膨張した水蒸気が噴石や溶岩を吹き飛ばしてしまう。

 戦後最大で60人以上の犠牲者を生んだ2014年の御嶽山噴火も水蒸気爆発だった。

 火山の水蒸気爆発は、マグマの中の水蒸気やマグマの近くにある地下水が熱せられたことによって圧力が上がり、地表にあった昔の火山灰や噴石などを吹き飛ばして噴火する。御嶽で被害を生んだのは昔の火山灰などだったのだ。

 ちょうど130年前には、御嶽山よりはるかに大きな水蒸気爆発が起きた。1888年7月15日の福島・会津磐梯山の噴火だ。

 このときは、火山の内部で水蒸気爆発が起きた。このため大規模な山体崩壊を引き起こして山頂も崩壊した。いま、空から見ると磐梯山の山頂から北側には息をのむような巨大な山体崩壊の跡が広がっている。噴火後は低くなって標高1816メートルになった。

 磐梯山の噴火はわずか1日で終息した。しかし被害は甚大だった。この山体崩壊で約500人もの死者を生んだ。また、川がせき止められ、桧原湖、小野川湖、秋元湖、五色沼など、大小さまざまな湖沼が作られた。

 水蒸気爆発は、とても怖いものなのである。

(添付の写真は磐梯山。島村英紀撮影。「定期旅客機から見た下界から。東から撮ったので、右側が磐梯山の北側になる)

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