島村英紀『夕刊フジ』 2018年3月9日(金曜)。4面。コラムその239「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

地震の前に聞こえる地鳴り
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「地震の前に聞こえる地鳴り "まさかこんなに大きいのが来るとは"


 さる1日の深夜、沖縄・西表(いりおもて)島で震度5弱を記録した。

 沖縄県でこの震度の地震があったのは2010年以来8年ぶりだ。「沖縄本島近海地震」が起きたときで沖縄本島の糸満市で震度5弱を記録した。

 今回は西表島の西南西約7キロのところでマグニチュード(M)5.6の地震が起きた。商品が棚から落ちたりしたが、幸い死傷者はいなかった。

 琉球列島は静岡以西と同じくフィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に潜り込んでいるところだ。それゆえ、あちこちで同じ構図で地震が起きる。2月に起きて大きな被害を生んだM6.5の台湾・花蓮沖の地震も、また恐れられている南海トラフ地震も同じ構図だ。

 今回の地震の200キロ四方以内では1947年にはM7.4の地震が起きたし、1966年と2001年にはM7.3の地震、そして1958年にはM7.2の地震が起きている。地震の多いところなのだ。今回の地震は小さめだったので、被害がごく限られていたのは不幸中の幸いだった。

 ところで今回の地震には地鳴りの報告があった。現地にある環境省西表自然保護官事務所の自然保護官は「ここ2〜3カ月、地鳴りが何度かあったから職場でも怖いと話していたが、まさかこんなに大きいのが来るとは」という。

 地震は震源で断層が滑ることで振動を生む。振動は長いものは数時間から、短いものでは数百ヘルツ(1秒間に数百回振動する)のものまである。

 地震の振動は地球を揺らせるものだから、スピーカーのコーン紙を揺らせて音が出るのと同じ揺れだ。それゆえ、地震の震源から出る振動のうち耳に聞こえる周波数である20ヘルツを超えるものは、音として聞こえる。これが地震のときの地鳴りなのである。

 一方、身体に感じないほど小さい地震でも、音だけが聞こえることがある。たとえ地震が起きて地鳴りとして人々が感じても、地震計のごく近くでなければ地震計では捉えられていないこともある。

 都会のように雑音レベルが高いところや琉球諸島のように地震計がとびとびの島にしかないところでは、地震観測能力が限られている。この西表島近海の地震でも、前震としての地鳴りが2〜3日前から感じられたのかもしれない。

 ところで大地震のときには、各地で地鳴りを感じたという報告が多い。しかし、これは建物や構造物がきしんだり、瓦(かわら)や家具が揺れたりする音であることが多い。だから、いわゆる地鳴りではない。

 私たちの研究では、地震計で捉えた地面の振動の時間を100〜200倍つめて、つまり周波数を高くして、音として聞くことがよくあった。こうすると、本来は聞こえない数ヘルツ以上の地震波が「音」として聞こえるのだ。雑音にまぎれてしまった地震も、こうすれば耳ではよく認識できる。

 物事のすべては、時間をつめて眺められる。私の仲間が硫黄島で記録してきて時間をつめた「音」は、地下でマグマが煮えたぎっているさまが目に見えるような音だった。

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