島村英紀『夕刊フジ』 2017年8月18日(金曜)。4面。コラムその211「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

堆積物が示唆する「次の大地震」
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「堆積物が示唆する「次の大地震」 宝永地震なみの大きさになる可能性も」

 お盆なので、怪談をひとつ。

 7月から、四国西部の地下深くで不思議な低周波地震が続いている。普通と違う地震だ。7月に入ってから、いままでにないほど多くの低周波地震が起きている。

 低周波地震とは普通の地震よりも周波数が低い地震で、日本各地でときどき観測される。低周波地震は、固体ではなくて流体的なものが起こしているのではないかと思われている。

 これらの低周波地震が来るべき大地震の先駆けになるのかどうかは、現在の地震学では分からない。かつて静岡の地下でいくつも起きた。そのときには「すわ大地震か」と緊張が走ったが、結局何も起きなかった。だが、これからも大地震に無関係かどうかは分からない。

 近年、低周波地震が集中しているのは、東海地方から四国までという、南海トラフ地震が起きそうなところだ。それだけに気味が悪い。

 ところで、大分県佐伯市の間越(はざこ)海岸に小さな池がある。砂丘でせき止められた龍神池と呼ばれる潟湖で、さしわたし100メートルあまりしかない小さな池だ。

 最近、この池の掘削で3つの砂の層が見つかった。この池は、過去の南海トラフ地震の先祖がどのくらい大きなものだったかを調べるカギを握っている。この研究は大分県東部から浜名湖までの日本の太平洋沿岸にある約30の湖沼で津波堆積物の調査を行った一環だった。

 もし大きな津波があれば、海際にある湖沼の底に津波が運んできた海の砂が堆積する。海の底では波で消えてしまう堆積物が、湖沼の底では残る。約30の湖沼のうち、もっともはっきりした結果が出たのがこの龍神池だった。

 見つかったいちばん上の海砂の層は1707年の宝永地震、2つ目は1361年の正平地震、3つ目は684年の天武地震の津波の痕跡だった。

 過去約10回の南海トラフ地震の先祖のうち、砂層は3つしか見つからなかった。それゆえ、九州で、とくに大きな津波を起こした先祖はこの3回しかなかったことが分かった。

 東日本大震災なみの大地震だったと思われている宝永地震は南海トラフの先祖のひとつだが、震源は高知の沖よりさらに西側にも拡がっていた。つまり日向灘に起きた地震が連動して超巨大地震になったことが分かった。日向灘は九州の東方、四国との間に拡がっている海だ。

 この池の掘削で分かった3枚の砂の層の時間間隔は677年と346年だ。もちろん、地震の間隔にはばらつきがある。だが、今年は、すでに宝永地震から310年たってしまっている。

 しかも、いちばん近年の先祖である東南海地震(1944年)と2年後にその西方で起きた南海地震(1946年)は、両方合わせても、歴代の先祖よりも小さかった。地震を起こすエネルギーが残っているのだ。それゆえ次の大地震、南海トラフ地震は宝永地震なみの大きさになる可能性がある。

 その巨大地震がいつ襲ってきても不思議ではない時期になっているのかもしれない。

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