島村英紀『夕刊フジ』 2017年1月27日(金曜)5面。コラムその183「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

イタリアの地震が起こした雪崩?
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「イタリアの地震が起こした雪崩? 東日本大震災でも北アルプスであった」

 現地時間の18日夜、イタリアの山中で高級ホテルが大規模な雪崩に押しつぶされた。

 犠牲者の数はまだ不明で「奇跡の救出」が続いているが、20人以上が亡くなったのではないかと思われている。

 この雪崩は地震のあとで起きた。このため当初は地震による雪崩だと報じられた。

 昨年夏には中世以来の歴史的な建物などが襲われて300人が死亡するなど、このところイタリア中部のアペニン山脈では地震が何度も起きている。ユーラシアプレートとアフリカプレートの衝突のために、欧州の南端にあるこの辺では地震が多い。

 この雪崩は地震の2時間後に起きた。このため、地震の直接の影響ではないのではないかという専門家の意見がある。

 しかし、地震が雪崩を起こして大きな被害を生んだことはたびたびある。2015年4月にマグニチュード(M)7.8を記録したネパール地震でも大規模な雪崩がエベレストの登山キャンプを襲った。震源から220キロも離れていたが雪崩が起きてしまったのだ。

 この地震ではネパールだけで8000人を超える死者が出たほか、近隣のインド、チベット、中国、バングラデシュなどに甚大な被害を生んでしまった。ネパールの人口の約30%にもなる約800万人が被災したと報じられている。

 この雪崩は標高5000メートルのところにあって約400人がいたエベレストの登山キャンプを襲った。

 この雪崩のために、ここだけでも22人以上が死亡した。それより上のベースキャンプにいた100人以上の登山者が帰れなくなった。「エベレスト史上最悪の惨事」と言われている。

 じつは前年の2014年にエベレストでシェルパ16人が死亡する雪崩が起きていた。そのために登れなかった登山家が2015年にはとくに多かった。そこを雪崩が襲ったのである。

 たしかに雪崩は、不安定な雪の層にちょっとした刺激を与えるだけで起きる。ときには大きな声を出すだけで雪崩が起きるほどだ。地震の揺れは、雪崩を起こすには十分なのである。

 じつは日本でも2011年3月に起きた東日本大震災のときに、震源からはるかに離れた北アルプスで山スキーをしていた山岳ガイドを含む男性3人が雪崩で死亡した。事故のあった小日向山(おびなたやま)は標高1907メートル。山スキーに訪れる客も多い。

 現地に近い長野県大町市では震度3を記録していた。事故現場の近くでも雪崩の跡や雪庇(せっぴ)の崩落が見つかっていた。

 この事故では生存者が一人もいなかったので、事故後の調査でも確証が得られなかった。それゆえ地震との因果関係は不明だが、地震による雪崩に巻きこまれた可能性がないとは言えないだろう。

 今回のイタリアの雪崩は地震後2時間たってから起きた。このため、ホテルにいた30数人の人々は、地震避難のために防寒具を着る時間があったのは不幸中の幸いだった。救出された人々が多かったのも、そのためもあったのだろう。

【追記】1月26日23:29の共同通信の配信によれば「死者は計29人になった。ANSA通信が伝えた。雪崩発生時にホテルにいた宿泊客や従業員ら40人全員の安否が確認され、捜索は終了した」とのことです。

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