こんどの1月1日朝に、1日を1秒長くする「うるう秒」が挿入される。日本標準時で午前8時59分59秒と9時0分0秒の間に、「8時59分60秒」が入るのだ。
1972年から原子時計が暦に採用された。つまり年や日の長さを、それまでの太陽の観測から決めていたやりかたをやめて、原子時計を採用した。
ところが、実際の地球の自転の変化は予想を超えて大きかった。それに合わせて地球上の時計を調整しなければならなくなったのである。
地球の自転の速さは、一定ではない。一般には少しずつ自転が遅くなっているから、ときどき「うるう秒」を入れなければならない。しかし不思議なことに、ときには自転が早くなることもある。
「うるう秒」はたった1秒。よほど気にしている人以外には、ほとんどの人は気がつくまい。
だが、地震の研究に影響が出たことがある。
ちょうどこの時間に地震が起きたのだ。
震源の位置や発震時(震源で地震が起きた時間)は、各地に置いてある地震計が観測した地震波の到着時間を、中央のコンピューターに集めて、その時間差から計算する。この仕組みは世界各地で動いている。
間の悪いことに1980年1月1日、世界標準時の0時に、その地震は起きた。大西洋の真ん中にあるアゾレス諸島でのことだった。震源から出た地震の波がそれぞれの観測点を通過している、ちょうどそのときに「うるう秒」が挿入されて、時計が1秒だけ遅らされてしまったのだ。
このため、震源を計算するコンピューターがパニックを起こしてしまったのだ。
時計がずれたために、ある観測点では「昨日」の地震になってしまったり、全然別の観測点で地震の波がふたつ同時に着いたことになってしまったせいだ。
この地震の震源は結局は決められなかった。
気象庁では、この前例もあることから、うるう秒の前後15分間は緊急地震速報に使っている熊野灘沖の海底地震計からのデータを取り込まないことにした。このために、緊急地震速報は最大12秒遅れることになった。
たぶん、影響は地震観測には限らない。
「うるう秒」の調整は1月1日か7月1日に行われることになっている。
前回は2015年7月1日だった。この日は平日だったために、世界の金融市場が緊張して警戒を強めていた。
米国では東部時間で6月30日午後8時直前に挿入された。このためニューヨーク証券取引所とナスダック市場では、混乱を警戒して、通常は午後8時までの時間外取引を30分切り上げて早めに終えたほどだ。
この日は、電子取引が1秒以下の精度で行われるようになってから初めて、平日にうるう秒が挿入された。それゆえ混乱を恐れたのだ。その前の「うるう秒」は2012年7月1日だった。このときは日曜日で金融市場は休みだったのだ。
幸い、2015年の「うるう秒」には幸い、心配された混乱はなかった。今度も元日なので、たぶん混乱はないだろう。
たかが1秒、されど1秒。文明社会では、意外な影響が出るものなのである。
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