島村英紀『夕刊フジ』 2016年12月2日(金曜)5面。コラムその176「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

次々に起きている人為的地震
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「次々に起きている人為的地震 石油と天然ガスの掘削活動が原因」

 米国カリフォルニア州南部にロサンゼルス盆地が拡がっている。ここで昔起きた大地震5個のうち4つは、石油と天然ガスの掘削活動が原因だという論文が11月に発表された。権威のある米国地震学会誌だ。

 最近、シェールガスや石油の採掘が地震を起こすことが明らかになりつつあって、米国で社会問題になっている。だが今回の発表は、シェールガスや石油の掘削技術が開発されるより前、20世紀の前半に起きた地震だ。

 シェールガスや石油の採掘は高圧の化学薬品を地下に圧入して岩に割れ目を入れて取り出す。他方、従来の石油掘削は、地下の原油やガスを深い井戸から取り出すだけの仕組みだ。

 ロサンゼルス盆地では、いくつもの地震が起きて被害を生んだことがある。1920年のイングルウッド地震、1929年のウィッティア地震、1930年のサンタモニカ地震、1933年のロングビーチ地震だ。

 どれもマグニチュード(M)6前後の地震で、学校が大きく損傷するなどの被害が出たが、なかでもロングビーチ地震がいちばん大きく、M6.4。120人の犠牲者を生み、被害総額も当時の金で約52億円にもなった。

 じつは、20世紀初めから、この盆地で石油ブーム時代が訪れていて、各地で石油の掘削が始まっていたのだ。

 最近までは、まさか石油の掘削が地震を起こすとは思われていなかった。米国でもカリフォルニア州とアラスカ州にだけは地震があることが知られていて、その仲間の、自然に起きる地震だと思われていたのである。

 今回発表された研究は、これまでの地質調査や石油業界のデータをはじめ、当時の政府機関の記録や新聞記事などを詳細に調べたものだ。その結果、当時起きていた5つの大地震のうち4つの嫌疑が深まったのである。

 1960年代に放射性廃棄物の液体を4000メートルの深井戸に圧入して、いままで地震のなかった米国コロラド州で地震が起きた。

 また、世界各地でダムが地震を起こしたことも知られるようになった。大きな被害が出たものに1967年にインド西部でM6.3の地震が起きて一説には2000人もが死傷した例がある。コイナダムという巨大なダムを造ったことで引き起こされた地震である。

 2014年には米国南部にあるオクラホマ州で起きた地震数が全米一になった。以前よりも50倍にも増えたことになる。

 シェールガスや石油の採掘による地震は、最近、同州をはじめ米国各地で起きている。

 米国で地震観測を担当している米国地質調査所(USGS)によると、米国で人為的地震の危険が多い州は、危険度の高い順にオクラホマ、カンザス、テキサス、コロラド、ニューメキシコ、アーカンソーの各州だという。いずれも自然地震はほとんど起きないところだ。

 シェールガスや石油の掘削。深井戸への液体圧入。ダム。人間が地球に何かをすれば、地震が起きることが分かってきている。その歴史が、じつは半世紀前にもあったことが分かったのである。

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