島村英紀『夕刊フジ』 2016年3月18日(金曜)。5面。コラムその143 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

課題が残る災害救助犬と災害用ロボット

 3月に発生した地震のなかには、東日本大震災の陰に隠れてしまったものがある。

 1927年3月7日に起きた北丹後地震。この地震はマグニチュード(M)は7.3。2925人の死者を出した直下型地震だ。1927年は昭和2年。昭和史の中で最初に登場した大事件だった。

 なかでも峰山町(現・京丹後市)では人口に対する死亡率は24%にも達した。これは類を見ない高い数字である。集落によっては家屋の倒壊率は70〜90%にも上った。

 峰山町のほか、兵庫県・豊岡町(現・豊岡市)、京都府・宮津町(現・宮津市)で震度6を記録した。被害が集中したのは丹後半島のつけ根にあたる約15キロ四方の範囲だった。なお、当時は震度6が最大震度だった。

 大阪でも大揺れだった。前にこの連載で書いたが、梅田の駅前にある阪急百貨店では客の食い逃げが莫大な額に達した。このため地震後に後払いをやめ、日本で初めての前金制の食券を取り入れた。

 89年目のさる8日に京都府・京丹後で災害警備訓練が行われた。この訓練にはNPO法人災害救助犬ネットワークも初参加した。

 参加した災害救助犬は2頭。兵庫県三木市と三重県菰野町から駆けつけた。そのうち1頭は2014年に起きた広島市の土砂災害で出動した犬だ。

 災害救助犬は警察犬とは違う。警察犬は犯人の遺留品などから犯人のにおいをおぼえて追いかけるものだ。

 これに対して災害救助犬は、不特定の行方不明者を捜す。瓦礫に埋まっている人間の呼気のにおいを感じて、吠えるなど、特定のアラート行動をするように訓練されている。

 訓練は地震に限らず、土砂崩れなどの災害、それに山や森林での行方不明者を捜索するために行われている。だが、警察犬が1万頭を超えるというのに、災害救助犬は日本全体で50頭あまりしかいない。

 有名な災害救助犬はスイスの山岳救助で使われてきたセントバーナード犬だ。

 バリー号という犬は、なだれに埋まるなどした40人以上の遭難者を雪から掘りだして救った。

 有名なのは、凍死寸前で眠っていた少年の上に覆いかぶさって自身の体温で少年を温めたあと、背中に少年を乗せて修道院まで運んだことだ。

 災害救助犬のほか、ロボットも災害救助に使われはじめた。しかし、階段を上ったり、人間が入れない隙間を動き回るロボットの動きはなんとも遅い。

 ロボットといえば、最近の失敗がある。この3月に、福島原発の原子炉の内部を調べるためのロボットが、たちまち動かなくなってしまった。放射線によって電子回路が破壊されたのだ。

 この点検用のロボットは、それぞれの原子炉建屋に合わせて設計・開発しなければならないものだ。これから単機能のロボットを開発するだけでも2年はかかるという。

 人間が行けないところに行くロボットの進歩は、まだまだ遅い。

 次の震災には、災害救助犬とロボット、どちらも活躍してほしいのだが。

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