島村英紀『夕刊フジ』 2016年2月5日(金曜)。5面。コラムその138 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

太陽系9番目の惑星と地球で起きる「事件」

 約10年ぶりのことだ。先月20日すぎから今月20日ごろまで、夜明け前の空に5つの惑星が同時に見える。水星、金星、火星、木星、土星だ。夜明けから45分ほど前に始まって、空が明るくなると見えなくなる短時間の天空ショーだ。

 金星は東の空。いちばん明るい星なので見つけやすい。金星に次ぐ明るさを持つ木星は南西の空に見える。

 火星は金星と木星の中間あたりに見える。赤っぽいのが目印だ。土星は火星と金星の間に見つかるはずだ。

 水星は地球よりもずっと太陽に近い軌道を回っているために、いつも太陽の近くにあって見えにくい。だが、金星とまだ地平線より下にある太陽の間に見えるはずだ。

 ところで、プロの天文学者が近頃、興奮しているのは太陽系の9番目の惑星が「まだ見えないけれども予測された」ことだ。観測に成功すれば天文学的には今世紀最大の発見になる。

 学校で習った「水金地火木土天海冥」という太陽系の惑星9つのうち、冥王星が惑星から格下げになった。2006年の国際天文学連合の総会のことだ。

 かつては冥王星の大きさはずっと大きいと思われていた。だが近年、月よりも小さいことが分かった。だめ押しは2005年に発見されて「エリス」と名づけられた小さな天体が冥王星よりも大きいことが分かったことだった。

 そのため、冥王星はエリスやもう少し小さめの天体と一緒に「準惑星」として扱われることになった。

 しかし、今回予測された9番目の惑星はずっと大きい。地球の10倍もの重さがある。冥王星よりもはるかに大きい。

 海王星の外側で「エッジワース・カイパーベルト」という準惑星がいくつもあるところがある。そこの準惑星6つの動きがどうもへんなので、この9番目の惑星の強い引力の影響であることがはじめて分かったのである。

 この惑星は、太陽からの距離が地球の200倍以上遠くて、太陽のまわりを一周するのに1〜2万年ほどかかると思われている。

 惑星は太陽などの恒星とちがって自分で光るわけではない。太陽の光に照らされて見えるだけだから、この星の明るさは冥王星の1/10000にもならないと考えられている。それゆえ、この惑星はもちろん肉眼では見えず、望遠鏡でも見えていない。惑星の存在は「あるはず」というものだ。

 この9番目の惑星を見つける競争が各国で始まっている。見えたら名前がつくだろう。

 9番目の惑星の公転の一回前は、日本では縄文時代より前だった。それからいままでに、地球には多くの大地震や巨大な噴火や、そして多くの戦争や原発事故なども起きた。この9番目の惑星がもう一回公転する間に、地球ではどんな「事件」が起きているのだろう。


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