島村英紀『夕刊フジ』 2015年5月1日(金曜)。5面。コラムその100 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

「プレートの異端児」が引き起こしたネパール地震
『夕刊フジ』の公式ホームページでの題は「ネパール地震引き起こしたプレートの異端児 北上続ける”インド亜大陸”」

 また「インド亜大陸」が大地震を起こしてしまった。

 ネパールで大地震があり、5000人以上が死亡、負傷者は10000人以上にものぼっている(註)。地震のマグニチュード(M)は7.8だった。

 インド亜大陸ははるか南極海からプレートに乗って北上してきて、約1000万年あまり前にユーラシアプレートと衝突した。しかし、それだけではすまず、いまでも北上を続けようとしてユーラシアプレートと押し合っているのである。

 このためプレートの端がまくれ上がってしまって「世界の屋根」ヒマラヤやチベット高地を作った。ヒマラヤはいまでも毎年1センチずつ高くなり続けている。

 このインド亜大陸の動きはたびたび地震も起こしている。

 近年では2005年にもM7.6の大きな地震がパキスタンを襲って、確認された死者だけでも9万5000人以上という大惨事を生んでいる。

 また2008年に中国南西部で起きた四川大地震(M7.9)も多くの学校が潰れるなどして9万人以上が亡くなった。このほか2013年にもパキスタンでM7.7の大地震が起き、少なくとも数百人以上が犠牲になっている。

 今回のネパールの地震もパキスタンや中国の南西部で起きてきた地震の兄弟分の地震である。

 ネパールでも1934年にはM8.4の地震で1万人以上、1988年にもM6.6の地震で1500人近くが死亡している。

 インド亜大陸が動こうとしている限り、この種の地震は、インドの北にあるこれらの国々で続くに違いない。地震が起きるメカニズムは日本とはちがうが、プレートの動きのせいで地震常襲地帯であることは同じなのである。

 ところでインド亜大陸はここまで来るあいだに、数奇な運命をたどった。もともとこのインド亜大陸は、ひとつの大きなゴンドワナ大陸と呼ばれる大陸が1億5000万年ほど前に分裂して南極大陸ができ、割れた残りがアフリカ大陸、オーストラリア大陸などとともに分かれて、それぞれが北上していったひとつなのだ。

 そして、このインド亜大陸がアフリカの東沖、いまフランス領レユニオン島があるところを通ったときに、地球深部から上がってくる「プリューム」の上を通った。プリュームとは、風呂の中を泡が上がってくるように巨大なマグマのかたまりが上がってくるものだ。

 このプリュームから大量のマグマがインド亜大陸を割って吹きだしてきた。学問的には「洪水玄武岩」という。大量のマグマが出てきて、まるで洪水のように地表を広く覆ってしまうという一種の噴火だ。

 出てきたマグマは富士山の体積の100倍以上という途方もない量だった。こうしてインドのデカン高原ができた。玄武岩の台地で、面積が日本全土の約1.5倍、50万平方キロもある。

 日本の噴火とは比べものにはならない、過去有数の巨大な噴火だった。その後の暴れ方といい、インド亜大陸は「プレートの異端児」なのである。

(註)記事が出た2015年4月30日現在の数です。

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