(北海道新聞・『ほん』面、「ほっかいどうの本」)、2003年10月26日朝刊

書評『日本の地形2 北海道』小疇尚・野上道男・小野有五・平川一臣編。東大出版会、6800円)

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 北海道の地形についての学問は、日本の他の地域よりも後れをとった。

 その理由のひとつは、道内に地形や地理を専攻する学者がほとんどいなかったことだ。

 たとえば約70年前に北大理学部が創設されたときには、近々増やされる予定の講座として地理学や地球物理学があった。しかし、第二次大戦による経済逼迫で、いずれも立ち消えになってしまった。戦後、地球物理学教室が1952年の十勝沖地震を奇貨として発足したが、地理学は幻に消えたままだったのである。

 専門が地形ではない地質学や地球物理学の学者たちが北海道の地形について先駆的な研究をしていたとはいえ、東半分と西半分が別のプレートに載ってきて合体したという特異な成り立ちや、日本の他の地域には見られない氷河関連の地形が広く残っている北海道の地形を系統的に研究するには、あまりに細々とした研究であった。

 その後、北海道は、未知のフィールドを求めた道外の研究者の草刈り場になった。それら「外来」の学者たちの成果をまとめたものが本書である。今、それら研究者の何人かは、北大などに作られた新しい部局に籍を置いている。日本の他の地域に比べ、とくに山岳地帯の研究が進んでいない面はあるが、本書は現在までの到達点を要領よく纏めている。

 私たちの生活も、炭坑や農業などの経済活動も、また地震や火山も、地形を舞台にしている。

 本書の、専門書としての学問的な意義は大きいが、同時に、私たちが住む舞台がどんなものかを知ったり考えたりするための、貴重な里程標である。北海道の地形はなぜ雄大な大陸風なのか、なぜ南北に脊梁が走っているのか、なぜ日本最大級の火山カルデラが多いのか。

 地形を通して、それを作った地球の息吹を感じることは、そこに住む私たちにとっては大事なことだろう。

(紙面には手違いで最終原稿ではないものが載ってしまいました。申し訳ありません。赤字の部分が紙面に載ったものとは違います)

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